2008年、135iクーぺ、120iカブリオレが登場したことで、BMW1シリーズに大きな注目が集まった。5ドアハッチバック、2ドアクーぺ、カブリオレと3つのボディバリエーションが揃うことになった1シリーズは、BMWの中でどのような役割と意味を持っていたのか。Motor Magazine誌では、130i Mスポーツ、135iクーぺ Mスポーツ、120iカブリオレという3モデルを集めて比較試乗、1シリーズの魅力に迫っている。ここではその試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine2008年6月号より)

手を緩めることのないバリエーション充実の狙い

もとより、新型3シリーズ用への展開も視野に入れて開発されたプラットフォームを備える1シリーズだけに、6気筒エンジン搭載モデルについては、早い段階からその登場が噂されていた。どうやら、凄いモデルが出るらしいぞ、と。

新型となった3シリーズは、1シリーズの導入発表からほぼ半年が過ぎた2005年4月13日に日本で発表されている。マグネシウム合金採用のシリンダーブロックとバルブトロニックメカニズムなどを搭載した待望の新世代エンジン、N52型直列6気筒を搭載したモデルとしては、3Lの330iと2.5Lの325iという2車種がラインアップされた。

この3L自然吸気エンジンはさすがにパンチがあり、330iに乗ってみると驚いた。スタート時の蹴り出しはかなり痛快であったのにもかかわらず、それでいて飛び出し感は巧みに抑えられていて、ジェントルな所作を崩していない。このあたりなどは、さすが3シリーズのトップモデルだと感じられた。

その新型3シリーズの登場から半年で、330i用と同じ3Lストレート6エンジンが、1シリーズの5ドアハッチバックボディに搭載されたわけだ。これには、熱心でコアなBMWファンの人々も含めて、大いに興味をそそられた。

それまで4気筒エンジン搭載モデルしか用意されていなかった新生1シリーズは、Cセグメントのモデルを探していたユーザーたちを数多く引き入れることには成功したものの、6気筒エンジンの良さを熟知する熱心なBMWファンにとっては、もうひとつ素直に受け入れにくい面を備えていたようにも思えた。

それが、革新的で強力な「シルキー6」エンジンを搭載し、1シリーズでは初めての6速MTが導入されたことやアクティブステアリング機構の設定、さらには同シリーズ初となるMスポーツ仕様の標準装備などでエクステリア面も充実。さらに実際に走らせてみれば、そこには過剰感すら漂わせるほどの力強さと、4気筒モデルを大きく上回る別物のダイナミクス性能が実現されていた。

こうなると、導入当初のプライスタグ「487万円」にも説得力が備わり、決して安いとはいえないその価格にもかかわらず「これぞ、まさにBMW」とばかりに、好意的に受け入れられたばかりか、1シリーズというモデルのイメージ付けにも大いなる効果をもたらした。

3Lエンジンは、高回転域まで一気に豪快に回っていく。バルブトロニックの採用によるレスポンスの良さも手伝って、その滑らかな回転フィールが存分に楽しめる。マニュアルシフトを駆使しながら5000rpm以上をキープしている時、クォーンと響く爽快なエンジン音や、レブリミットの7000rpmまで微妙に変わっていくエンジンの伸び感やそのパンチ力。それらに酔いしれて走らせていると、時が経つのを忘れてしまうほどである。

さて、そのようにして5ドアハッチバックモデルから世に出た「1シリーズ」は、今やBMWラインアップのボトムラインを強固に支える存在として大きく成長した。それゆえに、このモデルの基本ボディ形状は、5ドアハッチバックだと思い込みがちである。だが個人的には、今年になって日本にも矢継ぎ早に登場した2ドアモデル、135iクーペ Mスポーツや120iカブリオレの方が、そのたたずまいとしてはむしろ自然で好ましいとすら思っている。

5ドアハッチバック、2ドアクーペ、そして2ドアカブリオレ。なお、欧州仕様では3ドアハッチバックも用意されているが、よくぞここまでのバリエーションをラインアップさせたものだと思う。

BMWとしては、販売台数を伸ばすためという大命題があったはずだし、その拡大のためには、バリエーションを増やさざるをえなかったのも事実だろう。

そういうビジネス的な観点から見れば、5ドアバッチバックモデルを最初に登場させて、その動向を確認してから機が熟してくるのを待ち、いわば後出しのスペシャルメニューとして2ドアクーペ、2ドアカブリオレとして出してきたBMWのやり方は正しい。それに異論を唱えるつもりなどは毛頭ないが、ただ、もし最初に2ドアのクーペやカブリオレから登場していたら、1シリーズという存在が果たしていまどのように認知されていたのだろうか。

画像: 2008年2月に登場した135iクーペ Mスポーツ。1シリーズ初のクーぺモデルが新しい6気筒ツインターボとともに登場してきたのだから、その衝撃はやはり大きかった。

2008年2月に登場した135iクーペ Mスポーツ。1シリーズ初のクーぺモデルが新しい6気筒ツインターボとともに登場してきたのだから、その衝撃はやはり大きかった。

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