2008年、ロールスロイス ファントムに、エクステンデッド ホイールベース、ドロップヘッドクーペに続く第4のモデル「ファントム クーぺ」が登場した。ロールスロイスはショーファードリブンカーと考えられがちだが、実は1920年代からドライバーズカーの代名詞であるクーペやドロップヘッドクーペなどを連綿と生産、優れたドライバビリティを大きな特徴してきたブランドでもある。今回はスイスとの国境に近いフランスのリゾート地で行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)

この大きさにしては意外なほど曲がりやすい

さて、セレクトレバーをDレンジにセットし、やや重めのスロットルを踏み込むと、巨艦はスルスルと出航する。その長さから来るキャビンの雰囲気はボートのようで、ドライブ中もなぜか自分は船を操る船長になったような気分である。またエアサスによる快適でフラットな乗り心地も、水面を走るようである。

ホイールベースが3320mmと軽自動車の全長ほどもあるので、さぞかし曲がるのに苦労するのではないかと想像するが、タイトなコーナーでも驚くほど俊敏に回ることができる。もちろんステリングホイールは巨大で、グリップもちょっと頼りない。つまりスポーティとは無縁な格好をしているが、それでもBMW以前のロールスロイスとは明らかに違うアクティブな味付けになっている。

実際にハイスピードコーナーでは大きくロールするが、ステアリングからのインフォメーションは確かで、そのままの高いスピードを維持しながらコーナーを脱出することができる。もっともそんなことをするロールスロイス クーペのドライバーは、そう何人もいないはずである。

しかし、さすがにこの巨体を持てあます状況もある。フランスなどの村にある小さな交差点で、家などが迫って建て込んでいて左右の見通しが効かず、かなり前に出ないと安全が確かめられない時である。そうすると突き出したノーズにバイクなどがヒットする危険も出てくる。

そんな状況でとても役に立つのがノーズスカートに設置された2基の前方視認カメラである。このカメラは左右合計で180度の視界を持ち、ドライバーの正面のモニターを通じてまるで潜望鏡で覗くように、左右の安全を確認しながら交差点へ出ることができる。

ロールスロイスのキャビンでiPodやMP3で音楽を聴こうとするパッセンジャーがいるかどうかはわからないが、それでもコネクターはグローブボックスの中に用意されている。また、キャビン内にはちょっと面白い仕掛けがある。ルーフの黒い内張りに1500本のファイバーグラスライトをレイアウトしており、キャビンに星のような柔らかな光を放っている。もし望めば自分の星座や、社用車の場合は会社のロゴを入れることさえ可能である。面白い仕様だがまだ値段が決まっていない。きっと高いだろう。

ところで、このクルマをテストしている間に、とても貴重な体験をした。実は道を間違えてフランスからスイスへ入り込んでしまったのである。もちろんスイスは隣国とは言え、EUに属していないから、とくに国境での税関検問はかなり厳しい。そんなところへ時価5000万円のクルマに対して、分不相応に見えるおかしな東洋人が1人やってきたのだから何も起こらない方が不思議だ。いろいろ質問をされ、とくに1万ユーロ以上持っているかどうかの持ち物検査は30分以上にも渡り、哀れこの無実の日本人が解放されたのは、同じジャーナリストのファントムクーペが同じ国境に迷い込んでくるまで、1時間にも及んだ。

要するにファントムクーペは存在しているだけで周囲の人々に畏敬と羨望の念を起させる。これだけのオーラを放つクルマは、ロールスロイス以外には存在しないだろう。ちなみにこのオーラまでが標準装備となっているファントムクーペの日本でのお値段は、消費税込みで4998万円である。(文:木村好宏/Motor Magazine 2008年9月号より)

画像: 最高の素材をハンドメイドによりフィニッシュしたインパネまわりは落ち着いた雰囲気。

最高の素材をハンドメイドによりフィニッシュしたインパネまわりは落ち着いた雰囲気。

ヒットの法則

ロールスロイス ファントムクーペ 主要諸元

●全長×全幅×全高:5609×1987×1592mm
●ホイールベース:3320mm
●エンジン:V12DOHC
●排気量:6749cc
●最高出力:460ps/5350rpm
●最大トルク:720Nm/3500rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:5.8
※欧州仕様

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