2008年、メルセデス・ベンツは各モデルのアップデートとリフレッシュを精力的に行った。メルセデスの手法は、世代ごとにすべてを一気に変えるのではなく、新しい技術やパワートレーン、アイデアをその時々で躊躇なく盛り込むやり方。5代目SLクラスもその例に漏れず、まるでフルモデルチェンジのような変更を行っている。Motor Magazineではドイツ車特集の中で、マイナーチェンジされたSLの日本上陸にあわせて行われたSL63AMGの試乗とともに、同じくマイナーチェンジされたSLK、その後登場が予定されていたA/Bクラスの魅力についても考察している。今回はその興味深いレポートを探ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)

シングルクラッチながら驚異的な変速スピード

そんなメルセデス・ベンツの今を見る一例として、今回は標準モデルのマイナーチェンジと時期を同じくして追加されたSL63AMGをツーリングに連れ出した。

まず、新しいSLの改良点をもう一度おさらいしておこう。何と言っても目立つのはエクステリアデザインだ。フロントマスクはL型のコンビランプやワイドでスクエアなバンパー形状、300SLがモチーフの一本バーグリルなどにより以前より勇ましい表情になった。ボンネット上のパワードームや、リアのディフューザー風スカートなども新しいデザイン上のポイント。

個人的には、テールエンドの丸みを帯びたラインとフロントのスクエアなイメージがややアンバランスという印象も受けるものの、今回のフェイスリフトで2001年に登場したSLのモデルライフがさらに伸びたのは間違いない。ちなみに現行SLは今後4年は現役を続けると予想されている。

メカニズム面の進化も大きい。標準モデルではSL350のパワーアップが最大のニュース。動弁系の改良と新型インテークマニホールドの採用、高圧縮比化などにより44psの向上を果たした上、7Gトロニックにはブリッピング機能も備わっている。

新規モデルとして登場したSL63AMGには、さらに驚くトランスミッションが搭載された。既存の7Gトロニックのトルクコンバーターを湿式多板クラッチに置き換えた2ペダルAMTのAMGスピードシフトMCTだ。

ハイパフォーマンスカーの2ペダルはデュアルクラッチ式が世の趨勢になりつつあるようだが、メルセデスはシングルクラッチでもここまでできることを立証して見せた。

C/S/S+/Mの4パターンからシフトモードをセレクトできるこのシステムは、もっとも反応速度の速いMモードの0.1秒を選ぶと、文字通り電光石火のシフトを行う。ステアリング左右パドルのクリックで6.2L V8がブリッピングとともに軽快にシフトを刻む様はかなり気持ちいい。過去のシングルクラッチにあったアップシフト時のトルクの途切れもまったく感じられない。ちなみに、その際のエンジンサウンドは室内に居る限りコロコロと軽い音質、一方の車外音はゴロゴロとかなりの迫力となる。

もちろん525psの6.2L V8は超強力と表現するしかなく、どこから踏んでも厚みのあるトルクが味わえる。と同時にまるで小排気量エンジンのような鋭いレスポンスが楽しめるのが、このパワーユニットの不思議な魅力だ。そしてこうしたエンジンとスピードシフトMCTの組み合わせが、SLの走りをまるでライトウエイトスポーツのような軽快なものにしている。

ただし、今回は市街地を含め様々な走行モードが試せたため、改善すべきポイントも見えてきた。このスピードシフトMCT、クルマが動いている時のシフトコントロールは絶妙と言えるが、スタート時のクラッチのエンゲージはちょっとギクシャクする。とくに微低速で半クラッチ状態の時にアクセルを煽るとトルクがあるだけにスナッチが大きめに出るのだ。

もっともこれはデュアルクラッチ式にも見られること。初期のDSGはやはり極低速のクラッチワークに難があった。したがってソフトウエアのアップデートでさらに改善されるはず。そうなればスピードシフトMCTの魅力はさらに増すはずで、これはもうAMG専用アイテムではなく、スポーツトランスミッションとして幅広い車種への展開を望みたくなる。トルクコンバーターを介さないゆえ、7Gトロニックより格段にダイレクトでエンジンの表情を楽しめるのが、このギアボックスの最大の魅力なのである。

さらにもうひとつ、SL63AMGで感心させられたのはフットワークだ。試乗車は専用チューンのサスペンションとブレーキを中心としたパフォーマンスパッケージ装着車だったので、乗り心地も相応にハードになるのでは?と予想していたのだが、これは見事に良い方へ裏切られる結果となった。

サスペンション設定をスポーツにしているとややコツコツとするものの、その硬さはラグジュアリーオープンスポーツであるSLの性格を見事に反映したもので、無粋な揺れはまったく感じさせない、入力を一度で収束させる爽快な硬さだ。一方のコンフォートモードは、これはもう安楽サルーンそのもののマイルドな乗り心地になる。

と、まあ、ここまでならよくある話なのだが、SL63AMGはそのままワインディングに突入しても十分にコントローラブルで軽快なハンドリングを楽しめる。つまりコンフォートモードの懐が異様に深いのだ。サスペンションの設定が絶妙なだけでなく、オープンながら岩のような剛性を感じさせるボディ、姿勢変化を抑える第二世代のABC(アクティブボディコントロール)の相乗効果と言えるだろう。

そして、ワインディングでさらにペースアップをする場合やサーキットではスポーツモードが本領発揮となる。繰り返しになるが、このモードでも乗り心地はさして荒くはならない。それでいてステアリングの反応はより鮮やかになり、ロールを抑えた安定した姿勢で、ライトウエイトスポーツのような軽快なハンドリングもさらに強調される。2000万円級のスポーツカーにこんな例えは不謹慎かもしれないが、それほどにSL63AMGの走りはコントローラブルで楽しい。

画像: メルセデス・ベンツ SL 63 AMG。高速での安定性はもちろんのこと、ワインディングでも高い運動性能を見せた。

メルセデス・ベンツ SL 63 AMG。高速での安定性はもちろんのこと、ワインディングでも高い運動性能を見せた。

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