2021年3月16日、F1プレシーズンテストを終えたホンダF1パワーユニット開発責任者の浅木泰昭HRD Sakuraセンター長にインタビューすることができた。2021年シーズンがF1参戦最終年となるホンダは、最後のシーズンでのタイトル獲得を目指して、レッドブル・レーシング・ホンダとスクーデリア・アルファタウリ・ホンダの2チーム4台に新型のパワーユニットを供給する。

たとえ八方ふさがりの状況でも挑戦を続けていく

画像: ホンダのF1用パワーユニット。2021年最新仕様は未公開、写真は2018年仕様。F1の開発制限はパワーユニットにもおよび、エンジン本体から燃料、オイルまで、その仕様変更は昨年仕様から1回のみ許可され、以降は禁止となった。

ホンダのF1用パワーユニット。2021年最新仕様は未公開、写真は2018年仕様。F1の開発制限はパワーユニットにもおよび、エンジン本体から燃料、オイルまで、その仕様変更は昨年仕様から1回のみ許可され、以降は禁止となった。

HONDA RA621H パワーユニットテクニカルスペック

●パワーユニット
最低重量:150kg
基本要素:内燃機関(ICE)、モータージェネレーターユニット-キネティック(MGU-K)、モータージェネレーターユニット-ヒート(MGU-H)、エネルギーストア(ES)、ターボチャージャー(TC)、コントロールエレクトロニクス(CE)
●内燃機関(ICE=エンジン)
排気量:1.6L以下
シリンダー:V6ターボ
Vバンク角:90度
バルブ数:24
最高回転数:15000rpm
最高燃料流量:100kg/時(10500rpm以上)
燃料消費量:1レースあたり110kg(レギュレーション規定限界量)
燃料噴射直噴:シングルインジェクター/最大500バール
過給方式:シングルステージコンプレッサーエキゾーストタービン
●エネルギー回収システム
構造:モータージェネレーターユニットハイブリッド式エネルギー回収、クランクシャフト連結電気式MGU-K、ターボチャージャー連結電気式MGU-Hエネルギーストア
リチウムイオン電池:20〜25kg
MGU-K最高回転数:50000rpm
最大パワー:120kW
最大エネルギー回生:1周あたり2MJ
最大エネルギーデプロイメント:1周あたり4MJ
MGU-H 最高回転数:125000rpm
最大エネルギー回生:上限なし
最大エネルギーデプロイメント:上限なし
●トランスミッション
ギアボックス:カーボンファイバー縦置きコンポジットケース
ギア比:前進8速+リバース1速
ギアセレクト:油圧式シームレスシフト
ディファレンシャル:遊星歯車機構
クラッチ:油圧式カーボンマルチプレート

──2020年10月に今季限りでのF1活動終了を発表されました。今季はなんとしてもチャンピオンを獲得したいところですね。

「ホンダの技術者はF1挑戦をとおして、目標を達成する強い意志と情熱を培ってきました。この技術者の情熱がホンダの礎となり、未来のホンダ、先進的なホンダを形作ってきました。私自身、入社してすぐF1プロジェクトに参加し、その後、量産V6エンジンや軽自動車の開発を手がけてきましたが、F1という厳しい現場での原体験は貴重で、市販車開発で八方ふさがりの状況になっても、なんとかするんだというパワーになってきました。勝つか負けるかはわかりませんが、負けたままでは撤退できません。一昨年、昨年とシーズン3勝をあげることができましたが、まだまだ目標を達成できてはいません。今シーズン、なんとかチャンピオンを獲得して、世界一という自信を背にカーボンニュートラルに向けて、たとえ八方ふさがりの状況でも挑戦を続けていく人材を育てていかなければなりません。そうでなければ、F1を撤退する意味もありません」

──最後のシーズンに向けて新しいエンジンを開発したということですが。

「2021年シーズンは、一度だけ2020年仕様からの刷新が許されています。もちろんレギュレーションで規定されていますが。今年はエンジンを骨格から変更しました。パワーアップに行き詰まりを感じ、昨年から開発を進めてきましたが、新型コロナウイルス感染拡大もあり、その計画は一時凍結されました。ただ昨秋にF1活動休止が決定したことで、このままでは終われないと、開発を再スタートしました。具体的には、カムシャフトのレイアウトを変更し、ボアピッチを短縮、エンジンを大幅にコンパクトにしてカムシャフトの位置を下げました。これにより、バルブ挟み角、燃焼室の形状が変わり、重心や空気の流れも変わります」

──エンジン骨格の変更ということは、まったく新しいエンジンということですか。

「そう考えていただいていいと思います。ICEの部分は大きく変わりました。ホンダジェットや生産部門からの技術やアイデアも含めて、オールホンダの力を結集して開発しました。レッドブル、アルファタウリにとっても有効な変更だと信じています。もちろん、チームからの要望やアイデアもありました」

──今シーズン、エンジンはどんなスケジュールで進化していくのでしょうか。

「年間使えるパワーユニットは3基。同じ仕様のパワーユニットを使います。4基目を使用した時点でグリッド降格のペナルティがありますから。ただ状況によってはペナルティ覚悟で勝ちにいくということもあるでしょう」

──3日間のプレシーズンテストを終えた手応えはいかがですか。

「まあまあ、よかったと思いますが、例年の経験上、どのチームもまだ手の内をすべて見せているわけではないでしょう。とくにメルセデスはまだまだ多くを隠している感じです。我々としては、やれることはやったと感じられる内容で、予定どおりの有意義なテストでした。昨シーズンは、ライバルの伸びしろからすれば、十分優勝できるんじゃないかと感じていましたが、開幕してみるとメルセデスが思った以上に伸びていて、どうなるんだろうと追いつめられた気分になりました。ですから、開幕戦に向けて、期待は大きいのですが、少し不安もありますね」

──ホンダはプレシーズンテストでなにも隠してないんですか。

「それは秘密です。でも、我々がやるべきことはやりきった、という思いはあります。今シーズンを戦い切って、技術者に強い自信を植え付けてF1を卒業したいですね。みなさん、応援よろしくお願いします」

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