モータースポーツベースの市販車
古今東西、モータースポーツへの参戦を前提としたホモロゲーションモデルはいくつか存在する。だが、トヨタ曰く、GRヤリスはモータースポーツ車両をベースに市販車を作るという逆転的なアプローチで開発されたモデルだという。
その車台は前部が欧州ヤリス系GA-B、後部がカローラスポーツなどに用いられるGA-Cをベースとする混成的な骨格で、立派なブリスターフェンダーが示すとおりトレッドはリア側が広く、全幅は1805mmに達している。
G16E-GTS型はまったくのゼロスタートからの開発で、現状搭載するのはGRヤリスのみだ。1.6L直列3気筒のボア×ストローク比は87.5×89.2とほぼスクエアで、現代のターボユニットとしては高回転型に躾けられている。
テストしたRZハイパフォーマンスのドライブトレーンはセンターデフに電子制御式多板クラッチを用いる4WDで、ノーマルが60対40、スポーツが30対70、トラックが50対50と、3つのドライブモードに応じて前後駆動力配分をリジッドに変更する。
ちなみに6速MTはアイシン、ブレーキシステムはアドヴィックス、デフ関連はジェイテクトと、主要サプライヤーはトヨタ関連が占めている。このあたりからも「自分たちで作ったスポーツカー」というキーワードへのこだわりが見てとれる。
細部のアップデートで鈴鹿最速のFFに進化
一方のシビック タイプRは、FIA-WTCR参戦用のベース車両という側面はあるが、順序的にはまず市販型シビックありきで、それをベースとしたエボリューションモデルということになる。
アメリカで製造したエンジンをイギリスへと運び、スウィンドン工場でアッセンブリー・・・というややこしい生産プロセスの関係で継続的な受注が難しく、2020年秋に発売されたマイナーチェンジ版のロットはすでに完売と、ホンダの公式HPでは知らせている。
スウィンドン工場の閉鎖も決まっており、このFK8型タイプRはおそらくそのまま販売終了ということになるだろう。ちなみに2020年秋に発表された北米仕様の新型シビックにおいては、タイプRの存在が表明されている。ちなみにこのシビックタイプRは、前期型に対してグリル開口面の拡大や電子制御ダンパーの再チューニング、ブッシュやジョイント類の特性変更などのアップデートを受けている。
性能向上の可視化としておそらくはFF世界最速に向けて再度のニュルアタックを目論んでいたのだろうが、それはコロナ禍で叶わぬものとなった。代わりに、というわけではないが、鈴鹿サーキットでは2分23秒台のFF一番時計をマークしたという。
目指す舞台とそこに登る手段は異なるとはいえ、共に速さのために磨き上げられた日本車たちである。奇しくも似通った価格にあるこのハイパフォーマンスモデルたちを公道で乗る・・・その意味を探すのが、今回の試乗の目的だ。
街中から高速を使って箱根へと移動すると、乗り心地に車格なりの差があることがわかった。上質や快適というキーワードでくくれば、利があるのはシビック タイプRだ。ドライブモードをコンフォートにしておけば245/30R20というタイヤをものともせず、細かなオウトツには鷹揚に反応、大きな入力ではバネ側の硬さで上屋が正直に揺すられるも、突き上げはきちんと角が取れていてその動きは丸い。
速度域によってはスポーツモードを使えばライドフィールにはフラット感がグッと高まる。後席や荷室空間もしっかり確保されているとはいえ、ファミリーカーに適するとまでは言えないが、先々代のFD2型あたりから比べれば夢のように動きがしなやかだ。
可変ダンパーなどのデバイスを持たないGRヤリスは、基本的に乗り心地はソリッドで、路面オウトツや轍などに対するリアクションも大きい。が、その硬さは不快なものではなく、往年のランエボやインプレッサあたりに比べれば低速域から望外に足がよく動く。
そして日常的な速度域でもビシビシと伝わってくるのは車体の異様な剛性や摺動部の精度だ。路面入力をビンビンと一撃で減衰するモノコックのアコースティック感、幅広タイヤの上下動を余裕綽々で支える軸ブレのなさは、元を正せばBセグメントハッチバックのクルマから放たれるそれではない。
大袈裟でなく、役付きの911あたりを思い出すような質感が体や掌に伝わってくる。アシの動き自体はある程度速度が高い方が穏やかさを増すが、このいいハコ感を慈しみながら走れば、乗り心地自体が気にならなくなることも確かだ。