ベントレーというブランドには、大陸を横断するような長距離移動を快適に走ることができるグランドツーリング思想が、宿っている。今回はそれを実際に体験するためベンテイガ V8(Bentley Bentayga V8)で大阪までロングドライブに出かけた。しかし直行してはつまらない。紀伊半島をぐるりと大きく寄り道して日本の素晴らしさを味わうコースを選んだ。

「B」モードに込められたベントレーからのメッセージ

同じシステムを試したことはこれまでに何度もあるが、なぜか今回ほどその効果を明確に意識したことはなかった。なにしろ、路面に滑らかに追随するサスペンションのストローク感からは信じられないほどボディの傾きをしっかり抑えてくれるのだ。いや、攻めるような走りをしなければロールはまるで感じられないといってもいいくらい。それでいながら足まわりが妙に突っ張った感触がないので、サスペンションの伸縮方向への動きとロール剛性の高さの間に違和感を覚えることもない。

ダイナミックライドシステムの存在をこれまで意識せずに済んだのは、おそらくこれが理由だろう。

伊勢志摩スカイラインを折り返して紀勢自動車道に入り、紀伊半島をぐるりと回る。尾鷲でサンマ寿司のランチに舌鼓を打った私たちはさらに南下。熊野、新宮など、「いつか熊野古道を歩いてみたい」と思っていた私には聞き捨てならない地名が次々と現れるが、さすがにそのすべてを訪れる余裕はない。私たちは先を急いだ。

画像: 橋杭岩(和歌山県串本市):大小40もの岩柱が約850mにわたりそそり立ち、並び方が橋の杭に似ていることからその名前がつけられた。弘法大師と天邪鬼が橋を架ける賭けをして一晩で作られたとの伝説もある。

橋杭岩(和歌山県串本市):大小40もの岩柱が約850mにわたりそそり立ち、並び方が橋の杭に似ていることからその名前がつけられた。弘法大師と天邪鬼が橋を架ける賭けをして一晩で作られたとの伝説もある。

本州最南端の串本町を通り過ぎると、春の気配がはっきりと感じられた。陽射しの暖かさに加えて、青く輝く大海原が目を見張るような開放感をもたらしてくれる。「春を探して」が千葉編集長の隠れテーマだったようだが、もはや探す必要などどこにもなかった。私たちが訪れた南紀は、まさに春真っ直中にあったのだ。

柄にもなく白砂青松なんて言葉が思い浮かぶ景色を見ながら、私は「B」モードが持つ意味について改めて考えていた。

本来であればノーマルモードと名付けるべきところなのに、なぜ、ベントレーはこれを「B」モードと呼ぶのか。それは、イギリス クルーの技術陣が「これこそ私たちが考えるベントレーの姿」という想いを込めて「B」モードをセッティングしているからだ。

ベントレーにしてみれば、いまよりもずっとソフトで快適性に大きく振った「B」モードにすることなど造作もなかったはず。それを、あえてこの設定にしたのは、彼らがドライビングを愛して止まないからだ。穏やかなイングランドの丘陵地帯。そこを縫うように走るワインディング路を駆け抜ける際、「ああ、いま自分はベントレーを操っている」という確かな感触を伝えることを目指して、彼らは「B」モードをチューニングしたに違いない。

「これは単なるドライビングモードのひとつではなく、彼らから送られた大切なメッセージなのだ」

そう考えるうち、数千km離れたクルーで働くエンジニアたちと私の間で不思議な共鳴現象が起きた。そして、ふいに「B」モードに人の手の温もりが感じられるようになったのだ。こうなると面白いもので、硬さに対する嫌な印象もどこかに消え、ステアリングホイールから伝わる力強い感触をよりじっくりと味わいたくなってくる。このとき私は、「B」モードの意味を初めて理解したような気がする。

この日は熊野那智大社に参拝し、橋杭岩などを巡ってから南紀白浜に投宿。途中、憧れの熊野古道をかすめるように散策することもできた。またゆっくりと訪れたくなるような名所、旧跡ばかりだ。

贅沢な室内空間なのに乗員をゆったり寛がせてくれる

3日目は打って変わって生憎の雨模様である。風光明媚なはずの景色も、昨日とはまるで違った姿に見えるから不思議である。和歌山を過ぎたあたりで阪和自動車道に乗り、目的地の大阪を目指す。見慣れた都会の景色がフロントウインドウを埋め尽くすようになった頃、私は改めてベンテイガ V8のキャビンを眺めた。

優しいブラウンとアイボリーが組み合わされたインテリアに押しつけがましいところは一切ないが、その手触りはうっとりとするほど心地いい。ステッチのひとつひとつもしっかりと縫い込まれていて、惚れ惚れするようなクオリティ感だ。それは磨き抜かれたウッドやきめ細やかなローレット加工が施されたメタルパーツについても同様。だから恐ろしく贅沢な空間のはずなのに、人を怖じ気づかせることがまるでない。むしろ、乗員の心をゆったりと寛がせてくれる。これこそ、手作りのインテリアだけが醸し出すことのできる温かみであり、優しさなのだろう。

そんな感慨にふけっているうちに、大阪御堂筋の目的地に到着した。約1000kmにわたる道のりは長かったようにも短かったようにも感じる。確信を持って言えることはただひとつ。ベンテイガ V8とこの旅に出かけて本当に良かったということだ。(文:大谷逹也/写真:小平 寛)

ベントレー ベンテイガ V8 主要諸元

●全長×全幅×全高:5125×1995×1755mm
●ホイールベース:2995mm
●車両重量:2440kg
●エンジン:DCU型 V8 DOHCツインターボ
●総排気量:3996cc
●最高出力:404kW(550ps)/5750-6000rpm
●最大トルク:770Nm/2000-4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・85L
●WLTCモード燃費:7.5km/L
●タイヤサイズ:285/45R21
●車両価格(税込):2185万7000円

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