角を丸めた四角のデザインを磨き上げて登場
3代目(Z12型)となった新型キューブ。横浜で行われた試乗会場で実車を初めて見たときの第一印象は、「おお、いいじゃん」だった。なぜなら、どこから眺めてもキューブだったからだ。私は1998年にデビューした初代キューブ(Z10型)には、まったく興味が沸かなかった。とりたててどうというところがなかったからだ。だがこのモデルは売れた。
そして2002年に2代目(Z11型)がデビューした時、そのスタイリングの斬新さに驚き、好感を持った。しかし、これほど冒険的な四角いデザインが受け入れられるのか?といささか疑問符がついた。だがそれは杞憂に終わった。私のアタマが古かった。
「かっこいい」という価値観は時代とともにユーザーによって変化するもの。キューブの段ボール箱のようなイメージがユーザーには新鮮に写り、実際の使い勝手も大いに優れていたからビッグヒットとあいなった。
今回のフルモデルチェンジの目的は先代の特徴的なデザインを磨き上げ、リラックス性、快適性、経済性を大幅に向上させること。ボディサイズは全長が160mm、全幅25mm、全高10mm、ホイールベースは100mmもアップされている。前後長が伸びたため、視覚的な安定感がグンと高まっている。
デザインエレメントは先代を継承しているが、細部にわたって洗練され、「河原の石のように自然に無理なく磨かれて角がとれたような造形にしました」と日産はいう。
フェイスデザインは、「ブルドッグがサングラスをかけたイメージ」だと言う。さらに乗員をチャーミングに見せるピクチャーフレームウインドウと呼ぶ窓部分は、なるほどレトロなブラウン管テレビ風でもある。そしてキューブらしさの象徴である非対称バックドアは、先代からキャリーオーバーしている。今回のモデルから新色のクラフトダンボールなど3色が追加され、カラーバリエーションは全10色となった。
インテリアはなんとジャグジーバスをイメージしたとかで、ゆったりのんびりムード。シートはまんまソファーで、室内色は3色から選べる。メーターは月と地球をヒントにデザインしたという。とにかく遊びゴコロがいっぱいで陽気なインテリアだ。
走りは質感が一段と向上した
試乗コースは横浜ランドマークタワー周辺の一般路と首都高速道路。試乗車は15X Vセレクションという中間グレードを選択した。シートに腰をおろすとなんとも癒される感じ。ヒップポイントは625mmもあるから目線の位置が高く視界が開け、気分がいい。運転席はスライド量とシートリフト量が増え、小柄な女性から大柄の男性まで、ほとんど適切なドライビングポジションを確保できる。新型キューブに搭載されるエンジはHR15DE(109ps)のみとなりCVTと組み合わされる。
試乗会場から一般路に出て走り出すと、まず感じたことは静粛性の向上、それからホイールベース延長の恩恵による落ち着き感だった。先代キューブは見かけによらずバランスのとれた走りっぷりを見せたが、新型はボディやサスペンションの取り付け剛性を高めたことにより、走りの質感が一段と向上したことがはっきりとわかる。ショックアブソーバーのグレードアップやステアリングギア比の改善(少しスローにした)、電動パワーステアリングの精度向上など、細部にまで改良が加えられた結果だろう。そんなわけで市街地の取りまわし性能や快適性は、トップクラスと言えるだろう。
そして重要なニュースがある。新型キューブは2009年度から北米を皮切りに欧州市場にも輸出される。昨今の世界金融危機、自動車産業危機にタイミングを合わせ、急遽決まったわけではなく、開発当初から決定していたという。まさしく「日本発立体型コンパクトカー」の提案ということになる。
北米市場に投入するモデルは国内用のベンチシートではなく、セパレートシートとなり、マニュアルトランスミッションも用意されるという。ニューヨーク・ウオール街にキューブが溢れるかどうかはわからないが、「マイクログローバルカー」としてきっと注目を浴びるだろう。(文:Motor Magazine編集部/写真:井上雅行)
日産キューブ15X V Selection 主要諸元
●全長×全幅×全高:3890×1695×1650mm
●ホイールベース:2530mm
●車両重量:1180kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1498cc
●最高出力:80kW(109ps)/6000rpm
●最大トルク:148Nm/4400rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●10・15モード燃費:19.2km/L
●車両価格(税込):170万1000円(2008年当時)