幅広い車種構成に適応するセッティングは、やや硬めの乗り味
ギャラン フォルティス スポーツバックは、簡単に言ってしまえば、ギャラン フォルティスの5ドアバージョンとなるが、セダンボディを5ドアハッチバックに設計し直したのではなく、当初からこのモデルを欧州仕様の主力車種と位置づけて同時に開発が進められていた。
セダンを先に発表したのは、販売戦略と生産の都合だけのことで、欧州では「ついに真打ち登場」というところだ。2008年10月のパリ国際モーターショーでワールドデビューを果たし、日本よりも先に欧州で販売が開始されている。
ウエッジの効いた低くダイナミックなボディはまるでクーペのようだ。ギャラン フォルティス ラリーアートと同じ台形のジェットファイターフロントグリルを全車に採用することで、スポーティさを強調したのも特徴と言えそうだ。問題は、欧州では人気のスタイルも、なぜか日本ではこれまでは支持されていないこと。このくらいのサイズならばハッチバックのほうが合理的で使いやすいはずで、その上にスタイリッシュとなれば、「そろそろ売れてもいいのでは」とメーカーが考えるのもよくわかる。ユーザーにとっても選択肢が増えることは好ましいことだろう。
ではユーティリティはどうかと言えば、さすがに欧州市場を見据えたものだけあって使い勝手に優れている。大きなテールゲートによる広大な開口部、テールゲート側からレバー操作でリアシートを倒すことができるワンタッチフォールディングシート、2段階高さ調整カーゴフロアの採用も大きなアピールとなる。
グレード展開はベーシックの「ツーリング」、18インチタイヤ&スポーツサスペンションを装備する「スポーツ」、本格派スポーツの「ラリーアート」の3車種。搭載されるエンジンは2L MIVECの154ps/20.2kgmを基本に、「ラリーアート」はインタークーラー付きターボを装着したことによって240ps/35.0kgmまでパワーアップしている。
NAモデルには6速CVTが組み合わされ、駆動方式はFFと電子制御4WDを選ぶことができる。ターボの「ラリーアート」はデュアルクラッチタイプの6速SSTとACD付フルタイム4WDが組み合わされる。基本メカニズムはASCやESSといった先進技術も含め、ギャラン フォルティスと同じということだ。
試乗したのは「スポーツ」のFFモデル。発進してすぐに、まるでスポーツカーのような俊敏さと、しっかりとした足の硬さを感じることができた。ただし、市街地の荒れた路面や継ぎ目で、「少し硬すぎるのでは」と感じたのも事実だ。しかし、この後、高速道路に入ると一転して、しっとりとした乗り心地になる。平滑な路面をある程度以上の速度で走ると実にスムーズなのだ。これは欧州での走りを考えてのことだろうが、なおさら市街地でのしなやかさがもう少し欲しくなる。
その理由はどうやら、豊富な車種バリエーションにもあるようだ。ギャラン フォルティスシリーズにはFF仕様と4WD仕様があり、それぞれに重量や重量配分が異なってくる。さらに3種類のグレードがあり、タイヤは16インチと18インチの2種類が用意されている。
そうなると、とても車種ごとに細かくセッティングを変えることはできず、どうしても幅広い車種構成に適応する汎用性のあるセッティングとなる。これにより、ちょっとした不満も出てくるというわけだ。
欧州車ライクな「使えるスポーツカー」という狙いはよくわかるが、それならば思い切って18インチのFFの「スポーツ」とハイパワー4WDの「ラリーアート」の2本立てにして、もう少し絞り込んだセッティングにしたほうがいいのではないかと思う。せっかくの内容なのに、もったいない。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘/写真:井上雅行)
三菱ギャラン フォルティス スポーツバック スポーツ FF 主要諸元
●全長×全幅×全高:4585×1760×1515mm
●ホイールベース:2635mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1998cc
●最高出力:113kW(154ps)/6000rpm
●最大トルク:20.2kgm/4250rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●10・15モード燃費:13.4km/L
●車両価格(税込):216万3000円(2008年当時)