高性能自然吸気エンジンに特徴的な回転フィールと音
さて、そんなM3 CSLの良さは、何より走らせてみなくてはわからない。右足でブレーキペダルを踏んでエンジンスタート。MTモデルと同じ小さなブレーキペダルが位置も同様に配置されているので、これを左足で踏むのは難しい。この小さなペダルになっている理由だが、シングルクラッチ式AMTであるSMG IIの反応がとてもダイレクトなので、運転中にMTモデルだと勘違いしたドライバーが左足でクラッチペダルを踏む操作をしてしまった際に、AT用の大きなブレーキペダルだと突然の急ブレーキになってしまうことを防ぐためではないか、と思う。
久しぶりの高性能自然吸気エンジンモデルは、まるでバイクに乗っているかのような加速フィールだった。エンジンが高回転まで伸びるし、その間のエキゾーストノートの盛り上がりが、ドライバーのハートに火を点けるかのようにエキサイティングなのだ。
3500〜4500rpmくらいで少しビビリ音のような共振音が混じるが、それを超えると大きなパワーの山を超えるような感じで、レッドゾーンまで伸びていく。このとき同じギア、同じスピードでもアクセル開度によって吸気音が変わるから、助手席に乗っていてもドライバーがどれくらいアクセルペダルを踏み込んでいるのかが想像できる。そしてドライバーは、自分の踏み込み量が音となってフィードバックされるから、クルマとの一体感が生まれる。
現在はエンジンがダウンサイジング化され、多くがターボチャージャーなどの過給器付きになってしまっている。しかし、このような自然吸気エンジンを楽しむと、もう一度そんな時代が来ないだろうかと思ってしまうが、実際には燃費/排出ガス規制/騒音などの難問をクリアする手段としてターボなどの過給器を採用しているから、それは現実的には叶わない夢だ。ということは、オーナーは一度手にしたM3 CSLを手放さない、という結論になることも理解することができる。
軽量で高剛性なボディが実現する味わい深き走り
その根本にあるM3CSLの魅力は、軽量コンパクトなボディだ。360ps/7900rpm、370Nm/4900rpmを発生する3.2L直列6気筒エンジンで1430kgのボディを押し出すわけだが、日本の道で愉しむには十分に速い。確かにターボを使ってもっと速く走れるクルマはあるが、この味を出せるクルマはない。
最新型M4は、最初からコンペティションというネーミングのモデルも登場したところが新しい。従来はノーマルモデルがデビューしてから順番のようにコンペティション、CS、GTSなどのネーミングで、まるでマーケティング戦術のようなバリエーション展開が行われていた。
しかしそれが、最初から標準モデルのM4(6速MT仕様)とM4コンペティション(8速AT仕様)が用意されて、同時に選べるのだ。また本国では4WDのxDrive仕様もすでに発表済みで、さらにCSLモデルのスクープ記事まで出ている。
G82の最新型M4クーペコンペティションとE46のM3 CSLの共通点を見つけるとすると、ひとつはコンパクトに感じるボディサイズだ。ボディ剛性が上げられたことで身のこなしが素早くなり、実際のサイズよりもコンパクトなモデルとして感じられる。そしてもうひとつは、高回転型のエンジンだろう。
新型M4クーペコンペティションのエンジン仕様は510ps/6250rpm、650Nm/2750-5500rpmで先代M4エンジンのピークパワー発生回転数が5500-7300rpmであったのと比べると、頭打ち感のない加速が味わえる。
それでも、最新のM4 CSLが出れば間違いなくその方が良くなっているのだろう。ただそうなると、いつまでも買えないというジレンマに陥ってしまうのだが。(文:こもだきよし/写真:永元秀和)
BMW E46 M3 CSL(2003) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4490×1780×1370mm
●ホイールベース:2730mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直6 DOHC
●総排気量:3245cc
●最高出力:265kW(360ps)/7900rpm
●最大トルク:370Nm/4900rpm
●トランスミッション:6速AMT(SMG II)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・63L
●タイヤサイズ:前225/40R19、後255/35R19
●車両価格(税込):1150万円<2003年5月当時>