2009年5月、復活なったシロッコ(3代目)が日本に上陸することになるが、Motor Magazine誌ではフォルクスワーゲン特集の中でこの「上陸間近のシロッコ」に注目。明らかになってきた導入計画や当時のフォルクスワーゲンの狙いをふまえて、あらためてドイツ・ウォルフスブルグでの試乗の模様をレポートしている。ここではその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年3月号より)

迫力あるスタイリングと必要十分な日常性を備える

2006年のパリ国際モーターショーで公開されたコンセプトモデルのIROC(アイロック)を見たとき、「フォルクスワーゲンにしてはかなり思い切ったモデルだなあ」と感心したのを鮮明に覚えている。

グリルに使われるハニカムを模した壁を背景に、グリーンの照明に浮き上がったそのクルマは、ワイドなスタンスのアンダーボディに絞り込みの強いキャビンを乗せた、極めてスポーティなアピアランスを持っていたからだ。

前後に数文字を追加すると本来の車名になるという、ちょっと洒落たネーミングのこのコンセプトモデルは、まだワッペングリルの流れを汲む台形の大きなグリルを備えていた。その野性的な表情が、精悍さをより際立たせていたのは確かで、だからその2年後、2008年春のジュネーブショーで公開されたプロダクトモデルのシロッコ(SCIROCCO)を写真で見たとき、「やっぱり引いちゃったのかな?」と少し淋しくなったものだ。

しかし、それは僕の完全な思い違いだった。昨年2008年10月、ようやくドイツで実車に触れることができた新生シロッコは、IROCで感じた「熱さ」をそのまま受け継いでいた。

確かに顔つきは大きく変わっていた。大開口のハニカムグリルはバンパーによって上下に分断され、ヘッドライトにつながる水平基調のスリムなグリルとなった。だがそれは量産化に伴うデチューンではなく、IROC以降に、フォルクスワーゲンのデザイントレンドが大きく変わったからだ。

それ以外の部分、たとえば絞り込みの強いキャビン後半に対して、まるでリアフェンダーが突き出しているかのように見えるワイドスタンスや、実用性を考慮しつつギリギリまで狭められたフェンダーとタイヤの間隙などは、まさにIROCのそれであった。

「ぺったんこで、ドンとワイドで、カッコいい」。稚拙な表現で恥ずかしいが、これがドイツで相まみえた新型シロッコの第一印象。そして4日間そのステアリングを握り続けた後でも、スタイリングに対する好評価は変わらなかった。

新型シロッコは、1974年から1992年までで一度途切れた歴史を持ち出すまでもなく、フォルクスワーゲンとして久々のスポーツクーペである。新しい存在としてイオスがあるが、あれはゴルフカブリオレの新解釈というべきモデルで、エレガントな佇まいではあるものの、パッケージングはもっとゴルフ寄りで実用性を重視している。シロッコのような迫力は感じさせない。

実はここが大切なポイントなのだ。羨ましいことに、欧州にはこのようなスポーティなアピアランスのクーペを望むユーザーがまだ相当数いる。そういえば、以前ドイツで知り合いになった若者も「クーペが好き。でも新しいクルマは高性能だけど高価。古いモデルでも乗りたいけど、排出ガスが汚いので肩身が狭い」と嘆いていたっけ。

その辺を考えると、新型シロッコの狙いが明確に見えてくる。

クーペ好きに贈るクルマだから、スタイリングは極めて重要。しかし一台を様々なシーンで使うはずなので、そこそこの実用性も備える必要がある。

さらにクーペである以上、その走りがダイナミックなのは必須だが、既存のゴルフやパサートのRシリーズのように、大排気量エンジンで高性能を追求するのは、時代性からも価格面からもNG。こんなところだろうか。

実際、新型シロッコはトップモデルが2.0TSIで、1.4TSIも用意される。スポーツクーペだからといって、特別に高性能なパワーユニットが用意されるわけではなく、すべてゴルフシリーズなどに既存のものだ。

それだけではない、シャシはイオス/パサート系(つまり源流はゴルフ)をベースとしているし、インストルメントパネルも上半分はイオスと同じ物を使う。このようにパーツを共用化してコストを圧縮し、ヨーロッパでは手頃な価格も実現しているのだ。

日本での価格は未定だが、クーペ=高性能=高価という構図からは、ぜひ抜け出して欲しいと思う。

画像: 久しぶりに復活した「シロッコ」は、ドイツでは多くの人々から熱い視線を集めた。果たして日本ではどうだろうか。ウォルフスブルグにて。

久しぶりに復活した「シロッコ」は、ドイツでは多くの人々から熱い視線を集めた。果たして日本ではどうだろうか。ウォルフスブルグにて。

僕がドイツで試乗した新型シロッコは、最上級モデルの2.0TSI。現地ではオプション扱いの6速DSGを組み合わせており、タイヤはオプションサイズの235/40R18(銘柄はダンロップSPポーツ01)を履いていた。なお、ダンピングとパワーステアリングの制御を状況と設定に応じて変えるDCC(アダプティブシャシコントロール)は非装着だった。

大きめのドアを開けて乗り込むと、まずそのベッタリと低いドライビングポジションに驚かされる。メーターまわりはイオスで見慣れているが、その雰囲気はまるで違う。サイドサポートの張り出したシートも身体を包み込んでくれ、スポーティカー然としている。

低いルーフラインから想像されるように、コクピットの包まれ感はかなり強い。ただし、アップライトポジションのゴルフに較べて上体を反らした姿勢となるため、ヘッドクリアランスは十分に確保されている。

もっと驚くのは後席で、プラス2(つまり4人乗り)ということもあり、シート一脚ずつにたっぷりとしたサイズがある。座面もしっかり掘り込んであるので、きちんとした着座姿勢が得られる。前席によほど大柄な人が乗らない限り、そのレッグルームも十分だ。

実際、この空間に納まって400kmほど走ったが、苦痛は感じなかった。ただ、テールエンドに向けてガラスエリアを強く絞り込んでいるため、リアウインドウの面積はかなり小さい。おまけにリアシートはヘッドレストを一体化したデザインのため、後方視界の多くがこれに塞がれてしまう。

さらにCピラーも太めで斜め後方の視界もあまり良くない。そんなわけで、取りまわしやレーンチェンジではちょっと気を使うシーンもあった。 

トランクルームは十分な大きさで、スーツケース2個までならかなり大型の物でも後席を畳まずに積める。ちなみに容量は292L。左右均等に分割できるリアシートをすべて倒せば755Lとなる。絞り込みの強いスタイルを考えると、後席/ラゲッジルームの実用性は想像以上に高い。

画像: クーペスタイルのイメージとは裏腹に、室内の空間はしっかりと確保されている。前後席とも着座位置は低い。後席の座面はやや薄く細かな振動を伝えてくるものの、スペース的な不満は感じなかった。

クーペスタイルのイメージとは裏腹に、室内の空間はしっかりと確保されている。前後席とも着座位置は低い。後席の座面はやや薄く細かな振動を伝えてくるものの、スペース的な不満は感じなかった。

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