MTは当然楽しいが、今回はATも進化して愉しめる
MTのシフトフィールも細かな改良により大幅に改善している。また、トルク増に合わせてギア強度とクラッチ容量をアップするとともに、初代は軽すぎたペダル操作力も20Nmほど重くされたことで、ABC(アクセル/ブレーキ/クラッチ)ペダルの踏力のバランスがちょうど良くなった。
一方でATもまた大幅に進化していて、巧みな「なまし制御」により変速時のショックがまったく気にならないほど抑えられている。それでいてダイレクト感もあり、ドリフトだってできてしまう。サーキットを全開で走って楽しめるATである。
スポーツモードの設定も秀逸。半ばAR(拡張現実)的な制御も入っており、ターンインでイメージどおりにシフトダウンするとともに、コーナー立ち上がりでも適宜ギアを維持して引っぱってくれて、本当にこうだといいなと思ったとおりにギアをチェンジしてくれる。これなら多くのドライバーにとっては、マニュアル操作するよりもDレンジのままクルマに任せた方が速いのではないかと思ったほどだ。
コーナリングの印象も新旧では別物だ。試乗したのは18インチのミシュランPS4を履く最上位グレードだが、17インチのミシュランHPと比べると、グリップ感が段違いで、コーナリングスピードもそれなりに違う。
実はシャシについても大きな変更があり、正直「そこまでやるか」と思わずにいられないほどこだわって作り込まれている。姉妹車のGR86に対してバネレートの前後バランスを均等に近くしているのも特徴だが、よりフロントを軽くして前後重量配分を最適化するため、フロントハウジングをアルミ化し、軽量高剛性な中空スタビライザーを採用したことも特筆できる。
さらには、従来型とGR86のいずれに対しても、より大きく差別化されているのがリアだ。上屋とスタビライザーの効きが一体になっていた方が良いというSGPの思想により、サブフレームを設けボディ直付けとした。直付けすることでスタビライザーの効率が良くなるので、線径を下げることもできた。
加えて、コントローラブルな操作性を狙って、ハウジング下のトレーリングアームブッシュの硬度を引き上げた。こうすることでバンプトーインがほぼゼロにできるという。
走りは感性に訴えかける「質」の高さを感じさせる
実際のコーナリングでは、限界は高いものの一線を超えるとピーキーだった初代の前期型を思うと、新型は隔世の感を覚えるほど印象が変わっている。限界を超えても緩やかに流れ出し、そこからの流れ具合もとてもコントロールしやすい。むろんこれにはリニアなトルク特性でプラス400ccの余裕のある新しいエンジンも寄与しているに違いない。
スバルでは、あらゆる運転操作はゆっくりの方が良いと考えており、一般道を普通に走るにもサーキットでドリフトするにも、先読みができて自分の操作がどうクルマに反映されるのかを感じ取りながら走れるようにしている。それがスバルの謳う「安心・安全」にもつながる。
新型BRZはまさしくそうで、あらゆる面での数値的な実力を高めただけでなく、感性に訴える「質」の高さを感じさせた。
こうしてサーキットを全開で走らせても、手頃な価格で適度なサイズとパワーのFRスポーツとしての高い完成度とともに、そこにはスバルの根底にあるグランドツーリング思想が垣間見えた。(文:岡本幸一郎/写真:永元秀和)
■スバル BRZ S 主要諸元
●全長×全幅×全高:4265×1775×1310mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1270kg《1290kg》
●エンジン:水平対向4気筒DOHC
●総排気量:2387cc
●最高出力:173kW(235ps)/7000rpm
●最大トルク:250Nm/3700rpm
●トランスミッション:6速MT《6速AT》
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●WLTCモード燃費:11.9km/L《11.7km/L》
●タイヤサイズ:215/40R18
●車両価格(税込):326万7000円《343万2000円》
※《》内は6速AT仕様