乗らなければわからない部分にも大きな進化
7年ぶりのフルモデルチェンジを受けた新型メルセデス・ベンツ Eクラスだが、正直に言って初めて対面したときの印象は、期待に胸躍るというほどのものではなかった。
そのスタイリングはCクラスあたりからの流れにあるエッジが強調されたスポーティなもの。アイデンティティと言える丸型ツインヘッドランプが角形に改められ、ボディサイドにEクラスの祖先たる1953年の180を彷彿とさせるキャラクターラインが入れられるなど意欲的ではあるのだが、かと言って驚くほど斬新ともスタイリッシュとも思えなかったのだ。
実際にスペックを見ても、メルセデス自慢の安全性能に関しては、様々な先進技術の投入によって、この分野でトップを走る日本車に負けない大幅な進化を果たしているものの、クルマの根幹には、さほど目新しい部分は見当たらない。電子式ブレーキのEBCを投入したもののトラブルが続発して途中でコンベンショナルなブレーキに戻さざるを得なかった現行モデルの教訓かもしれないが、物足りなく思えたのは事実である。
しかし、先入観は実際にステアリングホイールを握るや完全に覆されることとなった。新しいEクラスは、とくにその走りの面で目を見張る進化を遂げ、確かな魅力を発散していたのだ。
最初に乗り込んだのはE500アバンギャルド。V型8気筒5.5Lエンジンや7Gトロニックなど、そのメカニズムの基本は先代型から継続して使われている。
ドライバーズシートに乗り込むと、目の前には直線基調でまとめられたダッシュボードが広がる。高い位置にCOMANDシステムのモニターが配置され、ダイレクトセレクトの採用でATのセレクターレバーはステアリングコラムに移動。その位置にはCOMANDコントローラーが配されたインテリアは、機能主義的な色彩が濃い。それは悪くないのだが、フロントウインドウの傾斜角の強さや、それにともなって手前に移動したルームミラーの圧迫感は、ちょっと気になった。
しかし、それも些細なことだ。何しろ乗り心地が抜群に良いのである。マドリッド近郊の荒れた路面で、改良されたエアマティックサスペンションを備えたE500アバンギャルドは、車体の姿勢を徹頭徹尾フラットに保ち続ける。路面がうねっていれば当然上下に煽られるが、その時にも余計な伸び縮みによる「お釣り」は皆無で、目線がブレることはない。
それだけではない。エンジンノイズやロードノイズ、さらには風切り音も非常に小さいなど、静粛性もとにかく高い。寝かされたAピラーは、セダンとして世界最高の0.25というCd値だけでなく、こうした部分でも役立っているに違いない。
そして、走行中に思わず溜息が出てしまったのは、路面の継ぎ目の段差を超えた時だ。この時、室内には「コトッ」というごく軽い音が聞こえただけ。この騒音や振動の遮断ぶりは、まるで自分はカプセルの中にいて、すべてはその外側で起きているように思わせるほどだ。
フットワークは、Cクラスのように敏捷性を強調した味付けではなく、応答性は正確ではあるが比較的ゆったりとした感じ。時に先代モデルのまったりとしたステアリングフィールが懐かしくもなるが、実際に走らせやすいのは新型の方である。
続いて乗ったE350CGIアバンギャルドはコンベンショナルな形式スポーツサスペンション仕様。乗り心地はやや硬めでスプリングが勝ったようなところもあるが、新たに採用されたCクラスなどでお馴染みのセレクティブダンピングシステムのおかげか、ショックの角は丸められているし、動きの方向性自体は一緒ということで、アバンギャルドを選ぶ人にとっては十分納得できるだろうと感じた。
スプレーガイデッド式直噴のV型6気筒エンジンは、先代モデルの本国仕様に最初に投入された時より明らかに洗練されていた。低速トルクはそこそこだが、そのぶんトップエンドまでスッキリと精度感高く回り切る様は、とてもスポーティなもの。パドルシフトの存在を一番楽しめるエンジンはこのV6だろう。