新しく刷新された2.0TFSIクワトロのパワートレーン
まさに待ち望まれていたモデルの登場である。これまで1.8TFSIと3.2FSIクワトロの2グレード展開だったアウディA4の、ちょうど中核の位置を占めることになる新グレード、2.0TFSIクワトロがいよいよデビューを飾ったのだ。
先代モデルでは主力の位置にあったと言っていい、この2.0TFSIクワトロが、新型には日本導入から1年以上もの間、設定されないままだったことには、ハッキリとした理由がある。それは名称こそ変わらないものの、実はそのパワートレーンの中身はすべて刷新されているということだ。
以前のもののキャリーオーバーで良ければ、あるいはすぐに用意することもできたのかもしれない。しかしアウディは、一時的に車種体系に空白を生じさせるリスクを背負ってまでも、このまったく新しいエンジンとトランスミッションにこだわった。そう言うことができるだろう。
A4としては初搭載のSトロニックにクワトロシステムを組み合わせる
走りの印象を記す前に、この新しいパワートレーンについて紹介しておこう。まずはエンジン。新しい直列4気筒2LのTFSI=直噴ターボユニットは、基本的なディメンションについては従来のものを継承しているものの、中身は完全に新設計とされている。
大きなポイントとして挙げられるのは、バランサーシャフトの採用。これは直列4気筒エンジン特有の2次振動を打ち消すことで、よりスムーズな回転感覚をもたらす。他にもエンジンは軽量化が図られ、ガソリン直噴システムは噴射圧150barの高圧タイプとなり、オイルの流量制御も行われるなど、細かなリファインが重ねられている。なお、これらの改良は1.8TFSIも同様である。
では何が違うかと言えば、バルブのリフト量を2段階に可変させるアウディバルブリフトシステムを排気側に採用したこと。これが大きなトピックと言えるはずだ。A6やA4に搭載されている最新のV型6気筒ユニットなどでは吸気側に用いられているこのメカニズムだが、過給ユニットの場合、排気側に使うと効率をさらに高めることができるのだという。
こうして獲得したスペックは、最高出力211ps/4300〜6000rpm、最大トルク350Nm/1500〜4200rpm。最高出力は先代に対して11ps増しとなるが、注目すべきはむしろ最大トルクで、これは実に70Nmものプラスとなっている。しかもこれは1.8TFSIより100Nm増し、そして3.2FSIクワトロに対しても20Nm増しと大きな数字なのだ。その発生回転域の広さを見ても、バルブリフトシステムの効果は想像以上に大きいと言えそうである。
そして、これと組み合わされるトランスミッションがA4には初搭載となるSトロニックだ。縦置きエンジン用のこのデュアルクラッチギアボックスは、前進7速のギアを備える。ユニットとしては大型に見えるが、中にはフルタイム4WDのセンターデフも内蔵されている。このクワトロシステムの基本前後トルク配分は40:60だ。
フラットで力強いトルクを曖昧さなく正確に伝える
さて、ではこのまったく新しいパワートレーンはどんな走行体験を味わわせてくれるのか。期待に胸躍らせながらクルマに乗り込むと、あるいは肩透かしを喰らうかもしれない。コクピットの印象は、決して華々しいものではないからだ。エンジンの違いは景色ではわからないし、セレクターレバーの形状もATと一緒で、せっかくのSトロニックをアピールするところは何もない。発進時の感覚も、また然り。ごくスムーズなクラッチの繋がりとヒルホールド機能のおかげで、大きな違和感はなく、まるでAT車のように走り出すことができる。
それでも、すぐに感嘆させられるに違いないのが、フラットで力強いトルクだ。アクセルペダルに乗せた右足に軽く力を入れるだけで即座に反応してクルマが軽々と前に出る感覚は、実に小気味良い。軽い昇り勾配でもパーシャルスロットルのまま気持ち良く速度が伸びていく様は、頼もしいものだ。
こうした場面ではSトロニックのタイトでダイレクトな反応も嬉しい。トルコンATでは味わえない、低速域から右足の動きに曖昧さなく正確に応える様は、クルマとの一体感を高めるポイント。速い遅いではなく、こうした部分こそがスポーティさに繋がっているのは間違いないだろう。確かに速度やアクセルの踏み方など条件によっては、微妙にギクシャクとした感触が伝わってこないではないが、得たものはそれ以上に大きいのである。