2009年3月、4代目アウディA4シリーズに2.0TFSIクワトロが追加設定されると同時に、スペシャルモデルとなるS4/S4アバントが登場している。このモデルはA4シリーズとは一線を画すスペシャルモデルだったのか、それともA4シリーズの延長線上にあるモデルだったのか。ここではその国内試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年6月号より)

Sモデルが持つ刺激と特別感、新しいアウディの走りの世界

強烈な印象を残すのは、やはりそのパワートレーン、特にエンジンだ。まずガツンと来るのが低速域からもたらされる図太いトルク。スペック上、最大トルクは2900〜5300rpmにて発生することになっているが、2000rpmを下回るところでもパンチは十分以上で、アクセルを踏み込むとグイッと背中を押されるような加速力を見せる。トランスミッションはダイレクトな感触のSトロニック。そして駆動方式はクワトロと来れば、そのダッシュは強力そのものだ。

このパワーユニットの凄さは、こんな風に低中速域で圧倒的な力感を獲得していながら、そこに高回転域に向けてのドラマティックな伸びをも両立させているところにこそある。重厚な低音を伴った吹け上がりは高回転域になっても勢い衰えず、それどころかトップエンドに向けて回転計の針を猛烈に駆け上がらせていくのだから堪らない。回転上昇とパワーの盛り上がり感もリニアで、本当に気持ち良く回し切ることができるのである。

正直に言って、過給器、それもスーパーチャージャー付きで、これほどまでの爽快感を味わわせてくれるエンジンは、これまで体験したことがない。そう言っても、決して過言ではないと思う。

こういうエンジンだからこそ、Sトロニックも活きるというものだ。十分な低速トルクがあるため、トルコンATの特徴であるトルク増幅効果はなくてもいい。しかもどの速度域、回転域でもアクセル操作と駆動の関係は素晴らしくリニアで、スポーツモデルに相応しい一体感、コントロール性の良さを実感できる。さらに言えばまさに瞬時に行われる変速も見物のひとつであることは間違いない。

画像: アウディ最強のV6エンジンとなった3.0TFSI。333ps/440Nmというパワーを発揮し、0-100km/h加速5.3秒を実現。

アウディ最強のV6エンジンとなった3.0TFSI。333ps/440Nmというパワーを発揮し、0-100km/h加速5.3秒を実現。

そして、それにも増して驚かされるのがフットワークだ。ノーマルモードでは穏やかな乗り味をもたらすドライブセレクトをダイナミックモードに設定してワインディングロードへと踏み込むと、まず最初のコーナーでターンインの鋭さに気付くはず。

まあ、ここまではドライブセレクト付きのA4でも大差はないが、S4の場合、そこから先にこそ驚きが待っている。立ち上がりで徐々にアクセルを踏み込んでいくと、まるで良くできたFR車を、しかもうまく乗りこなした時のように絶妙にリアが回り込み、ステアリングを直進状態まで戻しながら気持ち良く加速していけるのだ。これぞスポーツディファレンシャルの効果。A4とはまったく違ったハンドリングの世界がそこにはある。

いや、まだまだこんなものではない。もっと大胆に攻め込んだって、S4はしっかり応えてくれる。エイペックスまでで向きがほぼ変わっていたら、より深くアクセルペダルをプッシュ。するとS4は一瞬カウンターステアを要するほど大きくリアを振り出しながら猛然と立ち上がっていくのだ。それでも心配は無用、前輪に伝達されたトルクがクルマを前に引っ張り出してくれるため、姿勢がそれ以上に乱れることは、ほぼないと言っていい。

実はモナコでS5カブリオレに乗った時には、荒れた舗装+雨という状況で思い切りリアが振られるようなこともあったから、絶対にとは言えないのだが・・・。

いずれにせよ、そこには従来のアウディでは考えられなかった走りの世界が広がっていることは間違いない。正直言って「ここまでやっていいのか」と思わせるほどの大変革と言っても決して過言ではないだろう。

これだけ走りの醍醐味を堪能させてくれるS4の価格は、セダンが785万円、そしてアバントが803万円となっている。A4 3.2FSIクワトロはセダンで645万円、アバントで663万円。それに対して専用のパワートレーンにスポーツディファレンシャルにドライブセレクト、シルクナッパレザーのスポーツシートに、控えめながらわかる人にはしっかりとアピールするエクステリアまで標準装備されると考えれば、これは相当リーズナブルと言えるはずだ。

ライバルとの比較で考えても、この価格設定は興味深い。メルセデス・ベンツにもBMWにも、ここに直接ぶつかるエクスクルーシブなモデルは存在しない。BMWで言えば335iなどは近い領域にあると言えるが、こちらはA4ではなく、あくまでS4という特別なモデル。どちらが特別感や優越感に繋がるかは改めて言うまでもないだろう。

ユーザーのそれなりの出費に見合ったベースモデルとは違った見せ方をしようと考えたのだとしたら、その戦略はなかなか巧みだ。しかもイメージ的にA4から離れ過ぎていないだけに、結果としてA4のイメージアップにも繋がると考えればなおさらである。

それだけでは留まらない。新型S4は、これまでと同じA4シリーズの頂点という立ち位置から、一歩踏み出したとすら言えるのではないだろうか。アウディ全体にとっても、目下、S4は間違いなくハイテクイメージの象徴として機能しているはずだ。それでいて、この価格。ユーザーにとっては相当に旨味の大きなモデルと言えそうだ。アウディS4、ぜひ、心して挑んでほしい1台である。

それだけの内容を持ったモデルであり、きっと楽しめるに違いない。ただし、イメージだけで手を出すのは、個人的にはお勧めはできない。何しろ、その走りと来たら、RSを名乗るわけでもないのに想像以上に刺激的なのだから。(文:島下泰久/写真:小平 寛)

アウディ S4 主要諸元

●全長×全幅×全高:4715×1825×1420mm
●ホイールベース:2810mm
●車両重量:1780kg
●エンジン:V6 DOHCスーパーチャージャー
●排気量:2994cc
●最高出力:245kW(333ps)/5500-7000rpm
●最大トルク:440Nm/2900-5300rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:4WD
●10・15モード燃費:8.6km/L
●タイヤサイズ:245/40R18
●車両価格:785万円(2009年当時)

アウディ S4 アバント 主要諸元

●全長×全幅×全高:4715×1825×1445mm
●ホイールベース:2810mm
●車両重量:1830kg
●エンジン:V6DOHCスーパーチャージャー
●排気量:2994cc
●最高出力:245kW(333ps)/5500-7000rpm
●最大トルク:440Nm/2900-5300rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:4WD
●10・15モード燃費:8.6km/L
●タイヤサイズ:245/40R18
●車両価格:803万円(2009年当時)

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