2009年、「新世代アウディ」の象徴とも言うべきA5に、2.0TFSI クワトロが追加設定された。車両価格は582万円(当時)、待ちに待った登場だった。ここでは上陸間もなく行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年7月号より)

若々しくカジュアル、車両価格も魅力

あらためてアウディA5の堂々としたボディに驚いてしまった。アウディがこのモデルで目指したものは、小さなベントレーなのではないかとさえ感じた。

アウディ久々の2ドア&フル4シータークーペとして登場したA5は、フロントアクスルの取り付け位置を前方へ移動させたDセグメント新世代シャシレイアウトをいち早く採用。それがロングホイールベースとショートオーバーハングをもたらし、美しいフォルムを実現することになったのはすでにご存知のとおり。同時に、このシャシレイアウトは前後重量配分の適切化とメカニズム的なメリットをもたらし、その後、新型A4にも採用されて高い評価を得ていくことになった。

この新世代シャシレイアウトはまず美しいフォルムを実現すべくA5のために開発され、その後、A4にも採用された。つまり、2ドア&フル4シータークーペのために、このシャシレイアウトは必然だったのだ。

一部にはA5とA4を兄弟車のように見る向きもあるが、同じプラットフォームを使っているものの、ボディの大きさやデザイン、そしてコンセプトも異なる、まったく別のモデルと考えたほうがよさそうだ。

A5の車幅は1855mm(A4は1825mm)、その一方でホールベースはA4よりも60mm短い。サイドラインをはじめとした全体のプロポーション、細部のデザインなど、ベントレーコンチネンタルの雰囲気を漂わせる気品あふれるもので、A4とは一線を画すスペシャルさが随所に施されている。

画像: プレミアムモデルらしい美しく上品なフォルムが特徴。エクステリアは、上位グレードの3.2FSIクワトロと基本的に同じ。

プレミアムモデルらしい美しく上品なフォルムが特徴。エクステリアは、上位グレードの3.2FSIクワトロと基本的に同じ。

A5が特別で贅沢な存在であることは、これまで3.2FSIクワトロとS5 4.2FSIクワトロしか用意されていなかったことでも明らか。車両価格は700万円以上、A5とはそういうクルマなのだ。

しかし一方で、A5に興味を持っても、その車両価格から購入を諦めざるを得なかった人がいたというのもまた事実だろう。欲しくても簡単には手が出せないクルマだった。そこに今回、2.0TFSIクワトロが582万円という価格で加わったのだから、これは注目すべきだろう。

価格が安くなっただけではない。新設計2.0TFSIエンジンは直列4気筒直噴ターボと、3.2FSIのV6直噴自然吸気と形式が異なるが、最大トルクは20Nm上回り、しかもその最大トルクをわずか1500rpmという低回転から6000rpmという広い範囲で発生させるという使いやすさを持ち合わせている(ちなみに3.2FSIが最大トルクを発揮するエンジン回転域は3000〜5000rpm)。しかも車両重量は1640kgと3.2FSIクワトロよりも30kg軽いときているから、そのパフォーマンスがわかろうというものだ。しかもその最大トルクをわずか1500rpmという低回転から6000rpmという広い範囲で

さらにもうひとつ、トランスミッションに新開発の7速Sトロニック(DCT)が採用されていることも大きなポイント。電光石火の変速レスポンスと効率の良さが特徴のこのトランスミッションの効果もあって、10・15モード燃費は12.0km/Lと良好。3.2FSIクワトロが9.3km/Lだから、これも大きな魅力となりそうだ。

試乗は東京都心から箱根の往復。走り出してすぐに、滑らかで気持ちのいい走りを体感することができた。低回転から大きなトルクが発生するので、発進が極めてスムーズで、しかもアクセルワークに忠実に反応してくれる。時折、わずかに変速ショックを感じることもあるが、それもスポーティな味付けと言えるくらい。

箱根のワインディングでは、ボディが軽く、とくにノーズが軽いことが効いているようで、実に俊敏だった。ホイールベースが短く、また2ドアボディということもあって、おそらくボディ剛性が高いのだろう。走り味は重厚というよりもスッキリしたもの。足まわりそのものは硬いのだが、ゴツゴツした硬さは感じられず、速度を上げていくと、しなやかささえ感じさせる。

若々しくカジュアルになったと言っても、スペシャルクーペらしく装備や品質は充実しているのも魅力。作り込み品質やメカニズムはシリーズ共通、ミラノ本革仕様、ヒーター付パワーシートなども標準で装着される。

まず3.2FSIクワトロとS5 4.2FSIクワトロを投入してA5を堂々たるスペシャルクーペに仕立て、その後、カジュアルな 2.0TFSI クワトロを設定するというシナリオはなかなか見事。3.2FSIクワトロが大物俳優とすれば、2.0TFSIクワトロは若きスターというところだろう。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘/写真:小平 寛)

アウディA5 2.0TFSI クワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4625×1855×1375mm
●ホイールベース:2750mm
●車両重量:1640kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:155kW(211ps)/4300−6000rpm
●最大トルク:350Nm/1500−4200rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:4WD
●10・15モード燃費:12.0km/L
●車両価格:582万円(2009年当時)

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