トレーリングアーム式はさらにフルトレ、セミトレに区別される
トレーリングアーム式サスペンションは、主に乗用車のリアに使われる独立懸架の代表的なものだった。リジッドアクスルのトーションビーム式もトレーリングアーム式の一種となるが、ここで主に解説するのは独立懸架式のトレーリングアーム式となる。
基本的な構成は、ボディまたはクロスメンバーを介して左右輪それぞれ1本のアームが後方に向かって伸び、その後端に車輪を装着する。1本のアームのボディ側取付部に2つのピボットを持たせることで、前後方向と左右方向の両方の位置決めをしているため、とてもシンプルな形式だ。
さらにトレーリングアーム式には、フルトレーリングアーム(フルトレ)式とセミトレーリングアーム(セミトレ)式がある。それぞれについて解説していこう。
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日産初のFF乗用車となったチェリー。リアサスペンションはフルトレを採用して乗り心地の良さとFFを生かした良好な操縦性を実現した。
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「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。
フルトレは、アームの取り付け角を車体中心線に対して垂直とし、サスペンションが動いたときのアライメントにキャンバー変化もトー変化もおきない特徴を持つ。ただし、取付部を支点にタイヤの付いている後端が円運動するため、ホイールベースが変化するというデメリットもある。
この特徴はリジッド式のトーションビーム式と共通しているが、左右のアームを連動させていないため乗り心地はリジッド式より良い傾向となる。ただ、トーションビームと比較して圧倒的に優れているとも言えず、次第に姿を消していった。
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「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。
セミトレもフルトレと基本的な構造は同じだが、アームの取り付け角を車体の中心線に対して斜めにしている点で異なる。そのため、フルトレと違いサスペンションが動くとキャンバー&トー変化を発生させ、その反面ホイールベースの変化は少なくなっている。
セミトレはかつて、後輪駆動車のサスペンションにおいて主役とも言える存在だった。ジオメトリー的にコーナリング時にネガティブキャンバー、トーインとなるので操縦安定性に寄与する部分が多く、スポーティカーからラグジュアリーカーまで多く用いられてきた。
これを採用した代表的なクルマと言えば、1960年代から1970年代のハコスカやケンメリと呼ばれたスカイライン GT-Rだろう。また1980年代くらいまで、BMWの各モデルがセミトレを用いて高い評価を得ていた。これも今は主役の座をマルチリンクサスペンションに譲っている。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治)
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グループAレース、ラリーで活躍したE30型BMW M3もリアサスペンションはセミトレーリングアーム。レベルの高いコーンリング性能を持っていた。