サスペンションにまつわる「スプリングオフセット」という言葉、聞き慣れない人もいるかもしれない。しかし、ストラット式のサスペンションを考えた場合に、その欠点を補うという意味でとても重要な工夫として多くの車種に採用されている。縁の下の力持ちのようなその機構を解説しよう。

スプリングオフセットがストラット式サスペンションには必須!

ストラット式のサスペンションはロワアームにより連結されているが、ダブルウイッシュボーン式のようなアッパーアームはない。ショックアブソーバーを兼ねたストラットがタイヤハウスに連結されてアームの役割も担っているのだ。

ピストンロッドに対して、スプリングの角度をきつく付けることにより、ストラットの横力に耐えるような工夫がスプリングオフセットだ。

アッパーアームがないために、ストラットはコーナリング中にタイヤを通じて横Gを直に受けることになる。そのためショックアブソーバーの可動部となるピストンロッドに横力がかかり、スムーズな動きを妨げてしまう。またコーナリング時だけでなく、直進時でもストラットに曲げようとする力が発生し、ショックアブソーバーのスムーズな動きを阻害する。

このようにショックアブソーバーの動きを鈍らせてしまうと、高速コーナーでの走行性能を低下させてしまうというデメリットとなる。その点、アッパーアームでがっちりと支えて横からの力を押さえ込み、ショックアブソーバーを計算どおりに動かせるダブルウイッシュボーン式やマルチリンク式は優れており、ストラット式で実現できない性能だ。

画像: 「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。

「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」より転載。

しかし、こうした横からの力に対応する工夫がストラット式に行われている。それが「スプリングオフセット」と呼ばれる方法だ。具体的にはストラットのショックアブソーバーを覆うように装着されるスプリングを、ピストンロッドに対して角度を付けたり(図左:BMW)、スプリング全体を外側へズラしたり(下図右:三菱自動車)といった方法で行われる。

スプリングの中心を外側に傾けたり、スプリングをそのまま外側に平行移動することで、ピストンロッドにかかる力を軽減し、スムーズに動く補助をしているわけだ。現在ではメーカーを問わず、ストラット式サスペンションションのほぼすべてに、スプリングオフセットが採用されている考えて良い。

画像: 「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」」より転載。

「きちんと知りたい!自動車サスペンションの基礎知識(飯嶋洋治 著/日刊工業新聞社)」」より転載。

普段なにげなくクルマに乗っているだけでは気づかない、こうした細かい工夫。乗り心地の良さやコーナリング性能の向上のため、隠れた工夫が取り入れられているのだ。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治)

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