世界の電動車の5割以上が走る中国。だからこそ始まった新たな挑戦
2021年11月、中国太平洋保険、パナソニックチャイナ、三井住友海上中国の3社は「中国でのEV向けサービスにおける協力協定」を締結したことを発表した。この協定は「企業や一般のお客様向けにEV購入後も電池の安心安全な使用を支えるサービスを付帯した専用のイノベーティブな保険商品・サービスを提供し、EV普及の加速を支援」するものだ。
世界中の「新世代エネルギー車」の半分以上を保有していると言われる中国では、これまでの自動車ではあまり問題にならなかったバッテリーに関わる故障や劣化の問題、トラブルが発生した時の原因の特定といった「EVならではの課題」が浮き彫りになっている。
今回の3社の協業の核となるのは、そうした課題に対応できる保険商品だ。同時に、今後のさらなる普及拡大に向けて、車両のコスト削減や電池性能向上と安全性確保、充電などの利便性向上、中古車や電池のリユース・リサイクルといったエコシステム構築といった分野における「新たな価値の創造」にも取り組んでいくという。
ポルシェは、電動パワートレーンモデル専用の自動車保険を提供
BEVだけではないのだけれど、ポルシェは2019年からドイツ本国において、電動パワートレーンモデル専用の自動車保険の提供をスタートしている。
ポルシェファイナンシャルサービスが開発したもので、電気自動車の「タイカン」、そして「カイエン」や「パナメーラ」のPHEV車両が対象。駆動用バッテリーが故障した場合や充電ステーションでのさまざまなトラブルを、カバーするものだ。
ほかにもポルシェは、従来のポルシェ車から電動モデルに乗り換えた顧客向けに、付帯型保険パッケージとして「ポルシェシールド・Eカバー」を設定している。このサービスでは、電動パワートレーン搭載車のバッテリーが損傷してしまった時に、新品のバッテリーに交換する費用を補償してくれる。
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充電ケーブルが野生動物に噛まれた場合にも、最大1万ユーロを補償
さらに2020年5月、メルセデス・ベンツも同様のサービスを欧州エリアで展開することを発表している。こちらはメルセデス・ベンツバンクとドイツの法人向け保険会社HDI Globalが共同開発したもので、EVとPHEVに対して補償範囲がより幅広い保険サービスを提供する。
バッテリーにまつわる補償範囲は非常に広く、たとえば過電圧による損傷はもちろん、救助にかかった費用の補償、火災やけん引による損傷まで補償してもらえる。加えて通常の使用においてバッテリーが上がってしまった場合の、最寄りの充電ステーションまでの牽引にも対応する。
充電ケーブルの損傷(動物にかまれて破損してしまったなどという場合も!)も最大1万ユーロまでの被害額を補償してくれるというから、まさに至れり尽くせりの盛りだくさんな補償内容だ。
ポルシェにせよメルセデス・ベンツにせよ、こうした新しいサービスに取り組む背景にはやはり、電動化ラインナップへの移行促進という目的がある。いわゆる「お得意さん」たちを中心にユーザーに対して手厚くサポートすることで、安心感とお得感を高めるのが狙いだ。
日本の電動化に対する「サポート」の実状とこれから
残念ながら2021年11月9日現在、日本において同様のサービスは両社ともに展開されていない。しかし実は1社、すでに「専用サービス」を導入しているブランドがある。それは、テスラだ。
世界的に見ても今や「電気自動車」の代名詞的存在となったテスラ。圧倒的パイオニアだけに、ユーザーベネフィットを重視したサービスを日本を含むグローバル市場で早々に展開している。そのひとつが「InsureMyTesla Insurance」だ。
これは、SBI損害保険株式会社(個人向けの場合)を引受保険会社とするダイレクト型自動車保険プランで、手厚いロードサービスを中心に「業界最高レベルまでアップグレード」を謳う。電欠時の最寄り充電スポットまでのレッカーサービスのほか、ウォールコネクター、CHAdeMOアダプターの損害までカバーしてくれる。
もちろん「My Tesla」という名前どおり、手厚いサービスを受けられるのはテスラ車のオーナーだけ。それ以外の日本の電気自動車は、基本的に「普通の」自動車保険に入ることになる。「エコカー割引」や「ASV割引」などの特典は付与されるものの、「電気自動車ならでは」という補償内容は付帯されていないようだ。
とはいえ今後、電動化モデルの普及が日本でも進めば、ブランドに関係なく一般の電動化車両が加入できる、ハードの特性や使い方に合わせた専用自動車保険が誕生する可能性は高い。それはおそらくADASの普及、自動運転レベルの進化などと歩調を合わせながら、次世代のモータリゼーションを支え牽引していくために不可欠なものとなるだろう。
保険商品との連携によって、ドライブレコーダーはより広く素早く普及することになった。同様にこうした新しいサービスへの取り組みは、電動化や先進安全運転支援技術の一般化を、さらに後押しする可能性を秘めているのかもしれない。(文:Webモーターマガジン編集部 神原 久)