現行モデルの、初めての大幅変更
1948年に発表されたXK120は、その驚くべき性能と美しいスタイリングで、後に登場するEタイプとともに、ジャガーの名声を一気に高めた。ル・マン24時間耐久レースで華々しい勝利を重ね世界から注目を集めていたジャガーは、市販車の世界でも大成功。「どうやったらこんな高性能をこの価格で実現できるのか」と人々を驚かせたものだった。
新型XKシリーズは、その名車XK120の流れを汲むジャガー伝統のスポーツカー。新型といってもフルモデルチェンジではなく、2006年5月に日本で発表された現行モデルの、初めての大幅変更となるものだ。
ポイントは新開発の5L AJ-V8型ダイレクトインジェクションの採用と、XFで好評のジャガードライブセレクターの導入。
ジャガー自慢のAJ-V8型エンジンの最大の効率を追い求め、ダイレクトインジェクション化と5Lへの排気量拡大を敢行。排気量は従来のボア×ストローク=86.0×90.3mmの4196ccから92.5×93.0mmの4999ccに拡大している。その結果、NAで385psと515Nmを発生、0→100km/h加速は5.5秒という加速性能を実現しながら、10・15モード燃費7.0km/Lをマークする。
スーパーチャージャーを装着したXKRではさらに効率を高め、そのスペックは510ps/625Nm、0→100km/h加速は4.8秒、10・15モード燃費6.6km/Lに至っている。
従来の4.2L V8と比較して、パワー/トルクを20%ほど向上させながら、わずかではあるが燃費性能をアップさせているというから驚きだ。歴代ジャガーの中でも最高のパフォーマンスを発揮しつつ、環境性能でも世界を驚かせることになった。
ジャガードライブセレクター、6HP28型6速電子制御ATの採用も、XKファンが注目するところだろう。センターコンソール上のスタートボタンを軽く押してエンジンを始動、すると円筒形のセレクターレバーが上昇する。ギアポジションの選択はこのセレクターを回すだけ。もちろんそういった演出だけでなく、電子制御により的確で素早い変速が可能なのも魅力だ。
アダプティブダンパーの採用も大きなポイント。毎秒100回にわたって、ロール、ピッチ、上下動などをセンシングして制御するもので、これにより、ダイナミックな走りと快適な乗り心地の両立も実現している。さらにXKRに標準でアダプティブディファレンシャルコントロールを装備。これはトラクションコントロール、DSCシステム、ABSなどを統合制御して後輪のスリップをコントロールするもので、いわゆる電子制御トルクベクトリングシステム。後輪左右のトルク配分を制御して、よりスムーズなコーナリングを実現する仕掛けだ。
ジャガーだけが知るスポーツカーの神髄
まず、XKポートフォリオ コンバーチブルに乗り込む。妖艶な空間はまさにジャガー。ドライブセレクターや新しいマルチメディアインターフェイスが、これまでとは違った新鮮な感覚ももたらしている。それにしてもジャガーは不思議なクルマだ。メルセデス・ベンツやBMWなどと同じカテゴリーに属するはずだが、そういったライバルと比較する気にもならない。
スタートボタンを押して、ゆっくりと走り出す。いきなりアクセルペダルを踏み込もうという気にならないのも、ジャガーだからだろう。しかし、速度を上げていくと、全長4790mm、全幅1915mm(XKR)という堂々たるボディが軽快に感じられるようになり、脈動感のあるV8サウンドとともに、いつの間にかアクセルを踏み込んでしまっていた。
最新のV8エンジンやアダプティブダンパーもさることながら、それら最新技術をどう使えばいいのか、どうすれば気持ちいい走りが実現できるのか、ジャガーはスポーツカーの真髄、ノウハウといったものを心得ているようだ。
XKRはさらに軽快。510psというと獰猛な野獣のように思われるが、XKよりもさらに俊敏で、まるでライトウエイトスポーツカーに乗っているような感覚。アダプティブディファレンシャルコントロールの効果もあって、ノーズの入り方がシャープで、ワインディングが楽しいのは、むしろこちらのほうだ。
今回の取材は箱根を中心に行ったが、多くの人から「素敵なクルマですね」と声をかけられた。多くを語らなくても、ジャガーの魅力、オーラは発散されているということだろう。最新のテクノロジーを盛り込みながら、伝統は重ねられ、進化していくのだろう。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘/写真:永元秀和)
ジャガー XK Portfolio コンバーチブル 主要諸元
●全長×全幅×全高:4790×1895×1330mm
●ホイールベース:2750mm
●車両重量:1780kg
●エンジン:V8 DOHC
●排気量:4999cc
●最高出力:283kW(385ps)/6500rpm
●最大トルク:515Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:7.0km/L
●タイヤサイズ:前 245/40ZR19、後 275/35ZR19
●車両価格:1450万円(2009年当時)
ジャガー XKR クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4790×1915×1320mm
●ホイールベース:2750mm
●車両重量:1810kg
●エンジン:V8 DOHCスーパーチャージャー
●排気量:4999cc
●最高出力:375kW(510ps)/6000−6500rpm
●最大トルク:625Nm/2500−5500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:6.6km/L
●タイヤサイズ:前 255/35ZR20、後 285/30ZR20
●車両価格:1550万円(2009年当時)