専用デザイン&装備でこだわりの高性能をアピール
車名の頭に「Q」という記号を与えられたSUVシリーズ。さらに、その上屋(うわや)部分に、より流麗なクーペ流儀の造形を採用することで「スポーツバック」というサブネームを加えた、よりスタイリッシュなバリエーションも次々と展開するなど、アウディのモデル構成にあっては、御多分に漏れずSUVラインナップの増殖が著しい。
そうした昨今の状況下にあっても、A4やA6シリーズなどと共に長い歴史を備え、今なおブランドの基幹車種と紹介するに相応しい存在感を放つのがA3だ。
さらに、そのベーシックシリーズとは一線を画す高いパフォーマンスを秘めたパワーユニットが与えられ、それを受け止めるべく専用のチューニングが施された足まわりや、差別化された内外装の装備などでさりげなく自己主張が図られているのが、独自のネーミングが与えられながらも事実上はA3シリーズの頂点に立つS3・・・今回の主役たちである。
第4世代へとフルモデルチェンジを行い、日本では2021年5月に発売されている最新のA3シリーズでは、5ドアハッチバックボディの「S3スポーツバック」、そして4ドアボディの「S3セダン」を設定する。
共に高過給圧のターボチャージャーをアドオンすることなどでオーバー300psの最高出力と400Nmに達する最大トルクを誇る2L直噴直列4気筒エンジンと、アウディでは「Sトロニック」と呼ばれるDCTを組み合わせたパワーパックを搭載。
専用チューニングが施された「Sスポーツサスペンション」やギア比可変の「プログレッシブステアリング」などと共に、専用デザインの前後バンパーやパーシャルレザー素材を用いたシート、専用グラフィックのバーチャルメーターなどを標準装備する。さりげなく、しかし明らかに「こだわりのバージョン」であることをアピールするのが、最新のS3シリーズということになる。
アルゼンチンの舞曲に由来する「タンゴレッド」なる名称の鮮やかな真っ赤なオプションカラーに彩られたモデルが、今回の主役のひとつ、S3セダンだ。
前述のボディカラーに加え、電子制御式の可変減衰力ダンパー「ダンピングコントロールサスペンション」やマトリクスLEDヘッドライト/ダイナミックターンインジケーター、ファインナッパレザーのインテリアなど、総額77万円分という充実のオプションアイテムが装着されていた。
ノッチバックのセダンゆえ、ことさら躍動感が漲るプロポーションの持ち主というわけではない。だが、開口部が強調されたフロントマスク、ディフューザー調のシャープな造形を備えるリアバンパー、4本出しのテールパイプといった数々の挑発的なディテールを採用することによって、ひときわ高い走りのパフォーマンスを秘めていることは、「見る人が見れば明らか」と言える。
さらに5万円というエクストラコストを伴いはするものの、やはりオプションで用意されるレッドのブレーキキャリパーがホイールスポークの間から姿を見せていたことも、効いていた。
あまりにもハードボイルド過ぎる外観のアレンジに抵抗があるが、「普通のA3」とは適度に差別化されたスポーティさを楽しみたいという人にとって、出しゃばり過ぎず、かと言って地味に過ぎないS3セダンの見た目の演出は、なかなか上手いところを突いていると言っていい。
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より「堅実」な走りをルックスからもイメージさせる
そんなS3セダンに比べると、ライバルとして選ばれたAクラスセダンが、一見して随分と大人しく見えたのは事実だ。
本来、S3と相まみえるとなれば、やはり2Lながら高過給が与えられ300ps級のパワーを発する心臓を4WDシャシと組み合わせるAMG A35セダンが相応しい。だが、今回の取材は試乗車の都合上、日本に上陸してまだ間もないプラグインハイブリッドモデルでの敢行となった。
そもそも、「メルセデス・ベンツ初となる前輪駆動アーキテクチャーベースのプレミアムコンパクトセダン」を標榜するAクラスセダンの中にあっても、今回の『A250eセダン』は、欧州で厳しさを増すCO2の排出量規制をクリアするべく設定された、環境性能重視のモデルである。
本体価格の600万円はアウディ S3セダンの671万円を大きく下まわるが、160psの最高出力と250Nmの最大トルクを発する1.3L直4ターボエンジンと、最高で102ps相当の最高出力と300Nmの最大トルクを発するモーターを組み合わせ、WLTCモードで70.2kmというEVモード航続距離を謳う「チャデモ」急速充電対応のシステムを搭載するそんなモデルは、絶対的な動力性能でアウディS3と比べ物にならないのは明らかだ。
ただし、駆動用バッテリーを筆頭としたさまざまな電動化アイテムの搭載でS3を大きく上まわる車両重量を、いざ走り始めれば加速面でもハンドリング面でもさして実感させないことは、スタートの瞬間からレスポンス良く大トルクを発するモーターならではの特性と、駆動用バッテリーを後席下部に搭載する低重心設計が生きていることが伺えて興味深かった。
バッテリーの充電状況が良好である限り、完全なピュアEVとしての振る舞いを披露し、その後はガソリンエンジンが発するパワーが主体となるA250eの二面性に富んだ走りは、しなやかな乗り味を提供してくれる一方で、路面状況によってはボディの動き量が少々過大と思えるのが「玉に瑕」に思えた。
しかしA250eは、アウディ S3のパンチ力溢れる動力性能と、ちょっと硬質だがダイレクト感に富んだハンドリングフィール・・・という組み合わせとはまた別世界にある、走りの快感を味わわせてくれることになっていたことも、事実である。
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より大径のタイヤによってダイレクトな走りを演出
一方、車検証に記載された前後のアクスルに掛かる重量までが、セダンのそれとピタリ同じデータを示していたのが、ハッチバックボディのS3スポーツバックだ。
取材車が「ダンピングコントロールサスペンション」やマトリクスLEDヘッドライト/ダイナミックターンインジケーターといったオプションアイテムを装備しているのはセダンと同様だったが、こちらのスポーツバックは日本導入を記念して設定された『ファーストエディション』である。
19インチタイヤを装着することが、走りのテイストに影響を与えそうなポイントとして指摘できる。実際、前述したとおりセダンとスポーツバックでは実質的な重量差が生じていないことに加え、搭載される2L直4ターボユニットのスペックも変わらない。体感的にも、動力性能面ではまったく同格と思えた。
だが、乗り味の硬質さという点ではやはりスポーツバックの方が強く感じられた。端的に言って、ダンピングコントロールサスペンションのモード設定がいかなるポジションにあろうとも、路面の凹凸をより敏感に、よりシャープに伝えてくるのはこちら、スポーツバックの方と実感させられた。
個人的な好みからするならば、セダンが履いていたオリジナルの18インチ仕様の方がより好印象。ちなみに試乗車のタイヤは、セダンがピレリP7で、スポーツバックはブリヂストンのポテンザS005。前者が225/40で後者が235/35と、径の違い以外にそうした違いが走りに影響している可能性は、もちろんアリだ。
一方、S3スポーツバックのコンペティターとして今回用意されたのは、BMWのM135i xDriveだった。2019年に日本導入がスタートした第3世代の1シリーズの中にあって、ハイエンドに設定されたのがこのバージョンだ。8速ATとの組み合わせゆえ、トランスミッションの種類こそS3と異なるものの、2Lにして300ps級の出力を発する直4ターボや20kg差という車両重量、そして単純には比べられないとはいえ21万円の本体価格差までが、もはや「近似している」と言える事柄だ。
かつて「直列6気筒」や「FRレイアウト」といったフレーズがBMW車の金看板であったものだが、今や未練はないということか。個人的には、そうした点に一抹の寂しさがないといえばウソになるが、いざ走り始めると、きっとあえて演じられている部分もあるのであろうゲインの高いステアリングの効きや全般にちょっとせわしない乗り味に、「やっぱりBMW車なんだなぁ」という思いを抱くことになった。
いずれにしても、両者甲乙つけ難い「速さ」の持ち主であることは間違いない。そもそも4WDシャシ=クワトロをひとつの売り物としてきたアウディ S3に対し、1シリーズまでもが迷わずそれを採用している点にはBMW車=FRレイアウトという刷り込みがなされている人には今でも違和感が残るかもしれない。
だが、たとえ最高出力が300ps級のエンジンでも、それがターボ付きになった時点で最大トルクは大幅にアップ。このモデルのようにそれが450Nmにも達すれば低ミュー路でのトラクションや操縦性をまっとうに確保するという点でも、「4WD化やむなし」という判断が下されるのも当然なのかもしれない。