ライバルに追いつき追い越せジャーマンスリーの主力モデルたち
自動車業界が100年に一度の転換期を迎えた今、大きな第一歩を踏み出した印象を受けたメルセデスの新型Cクラス。今回、C200とC220dの2台に乗って感じたのは、自動運転などに代表されるADAS等に対応するためのシャシ作りが根底にある、ということだ。
軽くて反応の良いステアリング、バイワイヤーのようなわずかな踏力で立ち上がるブレーキフィールと減速G、リア操舵によって拳ひとつ分で反応するハンドリング性能。このすべてを組み合わせたことで、前回の試乗記で述べた軽快な走りが生まれている。
さらに路面をつかんで離さないながらも、Gを溜め込まない過渡領域の穏やかな特性。クルマの反応をとにかく速くしたうえで即座に挙動を安定させる。従来の粘り強く重厚な走りとは、まるで対照的であることに驚かされた。
2台に個性の違いこそあっても、基本的には操作系の軽さとレスポンスの良さが目を引き、自動運転の司令塔であるAIの認知、判断、操作を的確に反映させるための準備が着々と進められているように思う。
ライバル車として用意されたのはBMW318iツーリングとアウディA4 35 TDI アドバンスドで、ともに各モデルのエントリーグレードとなる。
Cクラスが2021年6月に日本で発表されたのに対し、3シリーズは2019年1月に現行モデルがデビュー。318iは320と同じ2L直4エンジンを搭載し、156ps/250Nmの出力に抑えられたエントリーモデルとして2020年9月に追加発表。A4も2020年10月にビッグMCを受け、35TDIはA4初のクリーンディーゼルユニットを積み、163ps/380Nmの出力を得て、翌2021年1月にラインナップされた。
軽い吹け上がりの318i、太いトルクが特徴のA4
デビューから時間が経っている3シリーズだけに、318iの走りは自然と身体に馴染んでくる。320と骨格が同じ2Lガソリンエンジンは全域でのトルク感は太くないものの、素速くトップエンドまで伸びきってくれる活きの良さが魅力だ。
軽い吹け上がりとともに4000rpmくらいまで切れ味鋭く跳ね上がると、そこからは320同様の力強さを加えてシフトアップポイントの6400rpmまで無駄なく回りきる。回すほどに元気が出てくるユニットはBMWファンの期待を裏切らない。モーターのバックアップはない半面、8速ATが間髪入れずにステップアップさせパワーゾーンを常にキープ。
Dレンジから左に倒すとSモードとなり、さらに手前に引くとMを選ぶことができる。Mはレッドゾーンやキックダウン領域に入らない限り変速せず高回転を維持し、MT同様のダイレクトな走りを味わえる。
A4もディーゼルユニットながら欧州車らしい走りの良さをしっかりと身につけている。発進加速ではわずかに踏み込んだだけで大排気量ガソリンユニット並みの力強さで立ち上がり、その太いトルクが4500rpmまで淀みなく続く。
2速へは3000rpmでリレーされ、速度が上がっても加速感に変化はない。7速ATのステップ比はやや大きめだが、トルクあるユニットには効果的。変速後に不要に回転が上がりすぎず、中速域で一瞬溜めを作ることで太いトルクを引き出してくれる。
パワーの落ち込みはほとんど感じることなく滑りのピークを保ち続けるディーゼルとは思えぬ柔軟性の高さと、路面を捉え続ける足もとの粘りは見事。このとき初めてFFであることを気付かせるほどの安定感があって、シャシ性能の高さも同時に教えてくれた。
C220dの440Nmの出力には及ばないものの318iの250NmやC200の300Nmのガソリン勢を大きく上回る380Nmのスペックをフロント2輪だけで受け止めるのはやはり縦置きFFゆえのフロント軸荷重負担と、駆動トルク変動を極力抑え込んだパッケージングのなせる技でもある。唯一のFFモデルながらライバル同様の走りに終始した点は大きい。
ハンドリングを比べると、BMWは軽快に吹け上がるガソリンエンジンとFRRレイアウト。アウディのトルクフルでありながらレスポンスに優れるディーゼルユニット搭載のFF駆動。このように、駆動レイアウト的にはまったく異なるもの、コーナーでの安定感はともに重厚さを残して、いつもと変わらぬ欧州車の乗り味を味わえた。
318iではフロントが軽く感じられ、いつものちょっと重めのステアリングフィールだがコーナーに飛び込んでしまえば、直感的にラインに乗ることができて、素直な乗り味はCクラス同様。その上で4気筒ならではの重量バランスの良さで、操る楽しみがある。
動きの速さと収まりの良さが持ち味のCクラス
もっともCクラスは素直であるが、前回述べたとおり軽快に動く足もととリア操舵などの組み合わせによる、動きの速さと収まりの良さが持ち味。ドライバーが動きの誤差を修正したり、ねじ伏せるような操作は必要とせず、どこかクルマに乗せられてしまっているような印象を受ける。
その点、A4はFFを意識させずに318i同様にコーナーに入ってからもステアリング操作に対して自由度があり、ライン上をピタリと抑えながら、次の操作に対して忠実に反応。リアから蹴り上げてくるようなプラスアルファの身軽さはないものの、4輪がピタリと路面を捉えて離さないから安心してラインを選んでいける。
Cクラスが計算し尽くされた理想の走りを終始徹底していくのに対し、ライバルの2台は従来どおり地に足をしっかりと付け、路面状態を重めのハンドルや重厚な乗り味としてドライバーに伝達。高い安定感を基本に、その先はドライバーの感覚と操作に委ねてくれている。この乗り味はやはり欧州車最大の持ち味。
乗せられている感のあるCクラスに対して、人間が介入できる要素の多い318iとa4の走りは馴染みやすく、ドライブする楽しさを自然に味わえる。
インターフェイスは、318iにはなじみの深いコマンドダイヤルが備わりナビ画面をいつもと変わらぬ手順で進められ、多く並ぶスイッチも他のBMWモデルから乗り換えても迷うことがない。
A4はT型のシフトレバーがセンターコンソールのドライバー側にレイアウトされ、パドルがなくても身体が手もとでの変速操作を自然に行える。
Cクラスに乗るとインターフェイスや乗り味は明らかにライバルや時代から一歩も二歩も先に進んでいる。走りも次世代機能との融合を見据えた切れ味で、次の100年を確実に牽引していく技術力と強い意志が見えてくる。
ただ、それはまだ始まったばかり。今回の試乗を終え、その歩みが少しばかり早すぎるのではないか。ちょっと早急すぎやしないだろうか。と、思ったのも事実。もちろんアナログ世代の愚痴である。(文:瀬在仁志/写真:村西一海)
BMW318iツーリング主要諸元
●全長×全幅×全高:4715×1825×1470mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1610kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1998cc
●最高出力:115kW(156ps)/4500rpm
●最大トルク:250Nm/1300-4300rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・59L
●WLTCモード燃費:13.3km/L
●タイヤサイズ:225/50R17
●車両価格(税込):546万円
アウディA4 35 TDI アドバンスド主要諸元
●全長×全幅×全高:4760×1845×1410mm
●ホイールベース:2825mm
●車両重量:1580kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量:1968cc
●最高出力:120kW(163ps)/3250-4200rpm
●最大トルク:380Nm/1500-2750rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:軽油・54L
●WLTCモード燃費:17.1km/L
●タイヤサイズ:225/50R17
●車両価格(税込):546万円
メルセデス・ベンツC220dアバンギャルド主要諸元
●全長×全幅×全高:4755×1820×1435mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:1750kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ+ISG
●総排気量:1992cc
●最高出力:147kW(200ps)/3600rpm
●最大トルク:440Nm/1800-2800rpm
●モーター最高出力:15kW
●モーター最大トルク:208Nm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:軽油 ・66L
●WLTCモード燃費:18.5km/L
●タイヤサイズ:225/50R17
●車両価格(税込):682万円