際立つ走りのポテンシャル。時代の変遷が表現されたM
BMWの製品にとって「M」というのは特別な記号。とくにBMW社の100%子会社で、前身がBMWモータースポーツ社であるM社がプロデュースした、車名にひと桁の数字、もしくはBMWが「SAV=スポーツアクティビティビークル」と紹介する、頭にXの文字とひと桁の数字を組み合わせた、モデル名に「M」の記号をプラスした各車というのは、それぞれのバリエーション中にあってもサーキットでの本格的なスポーツ走行まで視野に入れて開発された「Mモデルの頂に立つ」と言える存在だ。
こうした「Mハイパフォーマンス」モデルは、間もなくの世代交代が確実視されているM2をエントリーモデルとしてM3、M4、M5、M8、さらにスポーツアクティビティビークルとカテゴライズされるX3M、X4M、そしてX5MにX6Mと、現在これだけの種類が用意されている。
その中にあっても、そもそもは1986年に当時のグループAレース出場のためのホモロゲーション取得用に開発されて「戦うクルマ」として生を受けて以来、歴代モデルで「究極のドライバーズカー」としてのキャラクターが強く演じられているのがM3だ。
長い歴史の中で、数あるMモデル中でもイメージリーダー的な雰囲気の強いM3、そして当初はその2ドアクーペ版として存在しながら後に独立したネーミングを与えられて現在へと至るM4という、ふたつのモデルである。
「サーキット走行までを視野に入れた」と紹介したが、それでいながらも、基本的には日常の使い勝手に影響を及ぼすほど過度に走りの性能のみにフォーカスをしたわけではないというのは、基本的にはMハイパフォーマンスモデルに共通するひとつの特徴である。
そうした多彩なキャラクターを象徴する典型的な1台とも言えそうなのが、今回ここに紹介する新しい「M4カブリオレ」という存在である。
現行の4シリーズカブリオレは、従来型のリトラクタブルハードトップ方式を改め、オーソドックスなソフトトップ方式にいわば「原点回帰」したルーフシステムを採用する。そのモデルをベースに、新しいM4カブリオレが日本で発表されたのは2021年9月のこと。仕様は、M4カブリオレコンペティションM xDriveのみで、フロントフード下には、3Lから510psという最高出力と650Nmという最大トルクを発する直列6気筒ツインターボエンジンが収められている。
トランスミッションは、シフトノブ上のスイッチで任意に変速プログラムを選択できるドライブロジック機能が与えられた「Mステップトロニック」と称する8速ATに限定される。長きにわたり、「MTに拘る」という印象の強かったMハイパフォーマンスモデルも、今や2ペダル式のトランスミッションが主流という時代。すでにすべてのMハイパフォーマンスモデルのエンジンがターボ付きとなり、自然吸気のユニットが姿を消していることと共に、このあたり変化はまさに時代の変遷そのものということだろう。
同様に、やはり長きにわたって「FRレイアウト」というイメージが強かったMハイパフォーマンスモデルに「M xDrive」を謳う4WDシステムの採用車が増えつつある点も興味深い。これには、エンジンにターボチャージャーがアドオンされたことにより、パワー以上にトルクが一気に増大されたことでトラクション性能に対する要求値が高まったという点が大きく影響を及ぼしているはずだ。
実際、M4カブリオレに乗ると、わずかなアクセルペダルの踏み込みに対してもトルクの盛り上がり感は大きく、カブリオレという贅沢さも大きな売りもののボディにとっては、さらなる重量増というデメリットを受け入れながら、ゆとりあるトラクション性能を確保することでトリッキーな走りの挙動を回避する、という考え方には整合性が大きいと納得が行く。
一方、4WDシステムの持ち主でありながら後輪側にエンジントルク配分のバイアスが掛けられていたり、「RWDモード」まで用意されている点には、Mモデルらしさが際立っていると言える。通常の4WDモードを選択している段階でも、そのドライビングのテイストはFRの風味が強く、「4WDだから曲がりにくい」といった感覚は微塵も抱かないのだ。
加えれば、オープンモデルではあってもボディの剛性感は十分に高く、ルーフトップ部分も硬質な仕上がりで、静粛性もクーペボディへの引け目を感じさせない。
車両重量は1930kgと重量級で、クーペモデル比では140kg重い。理屈上ではその分、動力性能にも影響があり、0→100km/h加速タイムは0.2秒の遅れを取る。だが、それでもわずかに3.7秒で、4秒を切るデータは文句なしのスーパーカー級。際立つ走りのポテンシャルにフルオープンボディによるオープンエアドライビングも手にしたこのモデルは、ある面でMハイパフォーマンスシリーズの頂点に位置する存在と言えることにもなる。