8速ATが生むスムーズな加速感と、操る愉しさ
そしてさらにもうひとつ。この新次元の走りを実現した立役者が「8速AT」だ。BMWは先代7シリーズで、ZF社製6速ATを世界初搭載したが、今回は同じZF社製の8速ATを世界で初めて搭載した。6速ATのときと同じように、今後は名だたるブランドのラグジュアリーカーが次々と、この8速ATを採用するに違いない。
![画像: iDriveのダイヤルはシフトレバー、パーキングブレーキスイッチと並んで配置されるが、操作性に影響はない。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2022/04/15/ae1e4ada9c20b6211866cae1db8d2484e015d622.jpg)
iDriveのダイヤルはシフトレバー、パーキングブレーキスイッチと並んで配置されるが、操作性に影響はない。
さて、この8速ATだが、スムーズなことこの上ない。高速道路へ合流するときのような通常の加速時には、いつシフトアップしたのか、ほとんどわからないようなレベルにある。シフトダウンのときは軽くブリッピングをして、ピタッと回転が合った状態でギアがつながるので、いっそうスムーズであることを実感させられる。
もちろん、従来の6速ATに比べてギア比は幅広くなっており、トップギアはハイギアードになった。これも燃費向上に一役買っているが、その効果は低回転からトルクフルになった新しいV12エンジンがあればこそ、ということは言うまでもない。
エンジン、トランスミッションについての注目点は以上だが、サスペンションや、よりダイナミック運動性能を生むための電子制御デバイスなどは、すでにデビューしている750i、740iと同様の進化を遂げている。
完全バランスのV12エンジンはどこまでもウルトラスムーズ
少し具体的な走行時の印象をお伝えしよう。スタートボタンを押してエンジンをかけると、まず静かで微振動などまったく感じられないことに驚く。完全バランスのバンク角60度のV12エンジンだけのことはある。その静粛性のレベルはハイブリッドカーのスタンバイ(エンジンがかかっていない)状態に匹敵すると言ってもいい。
![画像: 740i、750iと同様、メーターナセル、フェシアの形状は従来モデルの面影を残すが、新型7シリーズとなって大きく変わったのはコラムシフトがフロアシフトになったことだ。確かにこちらの方が操作性はよいと感じられた。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2022/04/15/743acc58410c7ccd40286c02eed0ba18fcf9dfdc_xlarge.jpg)
740i、750iと同様、メーターナセル、フェシアの形状は従来モデルの面影を残すが、新型7シリーズとなって大きく変わったのはコラムシフトがフロアシフトになったことだ。確かにこちらの方が操作性はよいと感じられた。
加速フィールはトルクの厚い波が途切れなく続くようなイメージで、ターボの存在をほとんど感じさせない。これは担当エンジニアによれば「狙いどおり」だそうだ。そもそもBMWはV12をはじめV8も、直6もターボの存在感は抑えるということのようだ。
そして、この加速はどこまでも続いてしまう。試乗会場のミュンヘン周辺にはアウトバーンの速度無制限区間があるが、巡航速度の120km/hからアクセルペダルを少し踏み込むと、スピードメーターの針は一定の速さで動き続け、瞬く間にリミッターが効く250km/hに達してしまう。また、250km/hでもクルマは恐ろしく安定している。仮に単独走行ができるテストコースであれば、1時間この速度で走り続けても、ほとんど疲れはないだろうと思う。
アウトバーンを下りてカントリーロードを走る。ドイツは郊外の一般道の制限速度は100km/hなので、そこそこのペースで走れる。それでもそのときのエンジン回転数はわずか1700rpmほどである。これならば静かなはずで、燃費もいいはずだ。しかも、最大トルクは1500〜5000rpmで出ているわけだから、運転もしやすく快適なわけだ。
さらに、ちょっとしたワインディングに入り、ハイペースで走ったが、その素早い身のこなしには脱帽した。アクティブステアリングなど電子制御装置の恩恵もあるのだろうが、それにしても凄い。フロントが重いと感じさせるようなこともなく、バランスよく小気味いい。しかも、これは760Li、ロングボディなのだからびっくりだ。
このクルマはショーファードリブンで使われることが多いようだが、もったいない。オーナーになったなら、自らハンドルを握るべきクルマだ。また、Mモデルを買おうと思っている人も、検討に値するクルマかも知れない。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之)
BMW 760Li 主要諸元
●全長×全幅×全高:5212×1902×1484mm
●ホイールベース:3210mm
●車両重量:2250kg
●エンジン:V12DOHCツインターボ
●排気量:5972cc
●最高出力:400kW(544ps)/5250rpm
●最大トルク:750Nm/1500-5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●EU総合燃費:7.7km/L
●タイヤサイズ:前245/45R19、後 275/40R19
●0→100km/h加速:4.6秒
●最高速:250km/h
※EU準拠