カローラより80mm幅広く、185mm高いボディサイズ
現行カローラシリーズは、セダンの「カローラ」と「カローラ アクシオ」、ワゴンの「カローラ ツーリング」と「カローラフィールダー」、ハッチバックの「カローラ スポーツ」、クロスオーバーSUV「カローラ クロス」の6車種を数える。
この複雑なラインナップは、新型と従来型が併売されていることにある。
まず2018年に12代目カローラシリーズの先駆けとなるハッチバックの「カローラ スポーツ」が登場、翌年の2019年にセダンの「カローラ」とワゴンの「カローラ ツーリング」がデビューした。しかし、2012年に誕生した11代目「カローラ アクシオ」(セダン)、「カローラ フィールダー」(ワゴン)の販売も継続して行われることになった。
そして、2021年にはカローラシリーズ初のSUVとなる「カローラ クロス」が登場したというわけだ。
トヨタにとってカローラシリーズがいかに重要で、販売も見込めるブランドであるかがうかがえるが、中でも「カローラクロス」の販売は好調で、本家の「カローラ」「カローラ ツーリング」を凌ぐほど売れている。
「カローラ クロス」単体の販売台数は公表されていないが、2021年10月まで7000台ほどだったカローラのシリーズ販売台数が、カローラ クロス登場後の11月以降は、1万3631台、1万1841台、1万2636台、1万2671台に跳ねあがっている(乗用車ブランド通称名別販売台数・日本自動車販売協会連合会調べ)ことから、その好調ぶりは容易に想像できる。また、トヨタ自動車調べの最新販売実績でもカローラ クロスは「全トヨタ車の中で第5位」と発表されている。
「カローラ クロス」はその名前の通り、セダンの「カローラ」をベースとしたクロスオーバーSUV。一見カローラ ツーリングの車高を上げてSUVに仕上げただけのようにも感じられるが、実は本格派SUVとして新たにデザインし直されている。フロントやリアのデザインが異なるのはもちろんのこと、ウインドウの形状も異なる。
最新の「カローラ」と同様、優れた操縦安定性をもたらすと定評のTNGAプラットフォーム(GA-C=Global Architecture-Compact)を採用。ボディサイズは全長4490mm×全幅1825mm×全高1620mmと、カローラ ツーリングより80mm幅広く、160mm背が高い。ホイールベースの2640mmはカローラシリーズと共通だ。
■カローラクロスとカローラツーリングの、ボディサイズ比較
カローラ ツーリングと使い勝手の面で違いをもたらすポイントはまず着座位置にある。ヒップポイントが55mm高いため、腰をかがめることなくスムーズに乗り降りできるし、視界もいいので運転しやすい。この55mmの差は大きい。
また全幅は1825mmと80mmの差があるものの、最小回転半径はコンパクトSUVクラス最小レベルの5.2m(2WD・18インチタイヤ装着時)を実現し、狭い道や駐車場などでの取り回しが楽なのは美点。それでいて、室内空間はその全幅の余裕を活かしてゆったりとしている。
特筆点は少ないが、「良いもの感」がすこぶる高い
デザインはカローラシリーズとの共通イメージを残しながら、ボディサイドの黒いフェンダーアーチやサイドステップのロッカーモール、前後から絞り込まれるように入ったキャラクターライン、太い金属調加工で縁取られた大型フロントグリルなどで、力強さと新鮮さを表現。インテリアも水平基調のすっきりしたデザインのインパネはカローラとの共通性を感じられるもので、室内空間の広がりをうまく演出している。
パワートレーンは1.8L 直4ガソリンエンジンと、これをベースにしたエンジン+モーターのハイブリッドを用意。エンジン車は2WD(FF)のみだが、ハイブリッド車には後輪をモーターで駆動するE-Fourも設定されている。セダンやツーリングには限定的に設定される1.2Lターボ+6速MTこそラインナップにないが、基本は同じと考えていいだろう。
もちろん、カローラ ツーリングより重くなった車重にもこれらのパワートレーンに不満はない。WLTCモードで燃費26.2km/L(ハイブリッド Z・FF)というのも魅力となるだろう。ちなみに車重はカローラツーリングより20kgほど重いだけとなっている。
パワートレーン
●カローラ クロス:1.8L/1.8L+モーター
●カローラ ツーリング: 1.8L/1.2Lターボ/1.8L+モーター
「カローラクロス」の人気の秘密はやはり価格にあると思う。それは単に「安い」ということでなく、カローラに対するユーザーの期待を裏切ることなく、入念に作り込みながら「良質なクルマを求めやすい価格で」という思想を貫いていることにある。
意地悪な目で見れば、たしかにコストダウンがうかがえるところもある。例えばインテリアでは、ソフトパッドに覆われることの多いダッシュボードがハード樹脂となっていたり、ステッチが簡素化されていたり、「軽量化やスペース確保のため」にリアサスペンションをトーションビーム(FFモデル)に変更したりというのもそのひとつと言えるかもしれない。
しかし、インテリアを見渡してみてもチープさといったものは感じないし、むしろそのシンプルさはSUVらしいと感じられる。このあたりは実にうまい。またリアにトーションビームサスペンションを採用していることについても、以前に試乗したFFモデルの走りは、市街地で柔らかな乗り心地を提供する一方で、高速では引き締まったやや硬めといった印象だった。いずれにしてもトーションビームに不足を感じることはなかった。限界性能はともかく、一般的な用途ではむしろ軽快で良好と思われた。
トヨタ カローラ クロス ラインナップ
●ガソリン車
G -X(1.8L CVT):199万9000円
G(1.8L CVT):224万円
S(1.8L CVT):240万円
Z(1.8L CVT):264万円
●ハイブリッド車
G(1.8L+モーター FF/E-Four):259万円/279万9000円
S(1.8L+モーター FF/E-Four):275万円/295万9000円
Z(1.8L+モーター FF/E-Four):299万円/319万9000円
トヨタ カローラ ツーリング ラインナップ
●ガソリン車G-X(1.8L CVT FF):201万3000円
S (1.8L CVT FF):221万6500円
W×B (1.8L CVT FF):236万5000円
W×B (1.2Lターボ 6MT FF):247万3900円
●ハイブリッド車
G-X(1.8L+モーター FF/E-Four):248万0500円/267万8500円
S(1.8L+モーター FF/E-Four):265万1000円/284万9000円
W×B(1.8L+モーター FF/E-Four):279万9500円/299万7500円
「カローラ クロス」と「カローラ」の価格差がわずか20万円〜30万円ほど、「カローラクロス」と「カローラツーリング」の価格差にいたっては5万円〜20万円ほどで、人気のSUVということを考えると、これはやはり大きな魅力。「カローラ」をベースにしたからこそ実現できたものだ。
激戦のジャンルであるSUVだが、意外にも直接的なライバルが少ないのもポイント。車格的にはホンダ CR-VやマツダCX-30などが競合すると思われるが、カローラクロスの車両価格が約200万円〜320万円なのに対して、ホンダCR-Vは約335万円〜455万円、マツダCX-30は約240万円〜370万円と少し高めだ。
一方で、価格帯が近いモデルとして挙げられるホンダ ヴェゼル(約230万円〜310万円)はフィットベースのクルマなので、車格的にはひとクラス下ということになる。この点でも「カローラクロス」がいかに魅力的かわかる。
トヨタにはすでにこのクラスのSUVとして兄弟車というべき「C-HR」があるが、このC-HRで多くのことを学んだフシがある。SUVとして、デザイン、性能、快適性、実用性、価格をどうバランスさせて両立させるか。C-HRがあるからこそ、思い切ってできたこともあるだろう。
「カローラ クロスのどこがそんなにすごいか」と問われれば、特筆すべきところは多くない。しかし、総合点は高く、「いいもの感」がすこぶる高い。「求めやすい価格の良質なクルマ」という、まさに「カローラ」よりもカローラらしいクルマなのだ。(写真:井上雅行)
トヨタ カローラ クロス ハイブリッドZ(FF) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4490×1825×1620mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1410kg
●エンジン:直4 DOHC+モーター
●総排気量:1797cc
●最高出力:72kW(98ps)/5200rpm
●最大トルク:142Nm(14.5kgm)/3600rpm
●モーター最高出力:53kW(72ps)
●モーター最大トルク:163Nm(16.6kgm)
●トランスミッション:電気式無段変速機
●駆動方式:横置きFF
●燃料・タンク容量:レギュラー・36L
●WLTCモード燃費:26.2km/L
●タイヤサイズ:225/50R18
●車両価格(税込):299万円