かつてドイツ車といえば、高性能車であることの代名詞という捉え方をされていた。それを象徴する存在だったのが、ポルシェの各モデルたちである。その認識はいまも変わらない。築かれた価値観は、すべてのモデルに宿っているのだ。(Motor Magazine2022年8月号より)

周到に秘められた情熱と特別なものへと乗る覚悟

パナメーラ4 Eハイブリッドから感じるのは、計画遂行能力の高さや常に市場でのパフォーマンスを最適に保ち続けるという熟成への執念といった、ポルシェの冷静な側面だ。対して、同行したカイエン ターボGTからは、ポルシェの何を感じるのか。

画像: カイエン ターボGT。スーパースポーツモデルとしての性能とゴージャスさを両立。快適な設えは秀逸。

カイエン ターボGT。スーパースポーツモデルとしての性能とゴージャスさを両立。快適な設えは秀逸。

カイエンターボGTはクーペのみの設定となり、ターボをベースに搭載されるEA825シリーズの4L V8ツインターボエンジンは、クランクシャフトやタービン、インジェクター、吸排気・冷却系などひととおりに手が施され、640ps/850Nmを発生。同門のランボルギーニ ウルスに気遣ってかパワーはわずかに控えめだが、動力性能は0→100km/h加速が3.3秒とウルスに勝り、アストンマーティンのDBX707に肩を並べている。

その上で、ニュルブルクリンク北コースではしっかりSUVカテゴリーのレコードを更新。アウディRS Q8のタイムを3秒縮めて7分38秒台というから、まぁ用意周到にして負けず嫌いにもほどがあるというか、彼らのそういう秘めたる熱さが伝わってくる。

22インチホイールに窮屈そうに収められた超大径のPCCBや、入念なリアまわりの空力付加物を見るに、あからさまではないにせよ、ただならぬ目論見で設えられたクルマであることはクルマ好きなら感じ取れるだろう。

その見た目からすれば、低中速域での乗り味はまずまず平穏だ。小さなオウトツは綺麗に丸め込んで車内に不快なフィードバックを伝えることはない。だが、大きなギャップや目地段差などバネの張りが勝るようなシーンでは、入力に正直に上屋は揺すられる。

カイエン ターボを試乗した記憶を引っ張り出して比べてみても、これは明らかに引き締まった乗り味だ。ガツガツと突き上げるような不快感はきちんと除かれているが何に乗っても驚くほど快適な昨今のポルシェにあって、特別なものに乗る覚悟は多少求められる。 

限界直前まで性能を出し。冷静なプロセスで判断する

GTウルスやRS Q8の試乗体験でそれなりに構えはできているつもりだったが、テールをむずむずさせながら弾け飛ぶような全開加速にはちょっと驚いた。たとえばウルスと比べて重量が極端に軽いわけではないが、体感的な速さはカイエン ターボGTが上回っている。

画像: 一糸乱れることなく運動性能を引き出す。(写真前:パナメーラ4 Eハイブリッド プラチナエディション、後:カイエン ターボGT)

一糸乱れることなく運動性能を引き出す。(写真前:パナメーラ4 Eハイブリッド プラチナエディション、後:カイエン ターボGT)

走り始めると巨体がギュッと凝縮して感じられる感覚もまたポルシェ特有というところだろうか。操作と応答のシンクロ感が自然で素早い、そんな印象はパナメーラでも感じるところだ。

ハンドリングはターボGTの特別さをもっとも感じさせてくれるところだ。アクセルペダルオンでの回り込みの強さは他のモデルとは一線を画するところで、ハイゲインで鋭い旋回の源となっている。

サスペンションのセッティングもさておきながら、PTVやPDCCといったさまざまな電子制御デバイスがこのクルマのために調律され、一糸乱れることなく独自の運動性能を引き出しているであろうことは想像に難くない。

2トンオーバーの高重心なSUVをどこまでストレスなく曲げることができるのか。カイエンターボGTは世界のプレミアムブランドが躍起になるそこに、ひとつの到達点を示しているように思う。速さより物理的違和感が勝ってしまうギリギリのところまでポテンシャルを引き出し、その成果をきちんと数値化してみせるのだ。

何人たりとも前を走らせない、という情熱がポルシェの原動力であることは間違いないが、それを実現するプロセスが冷静に量られているところも、またポルシェの原動力なのだろう。(文:渡辺敏史/写真:永元秀和、井上雅行)

ポルシェ カイエン ターボGT 主要諸元

●全長×全幅×全高:4940×1995×1635mm
●ホイールベース:2895mm
●車両重量:2240kg
●エンジン:V8DOHCツインターボ
●総排気量:3996cc
●最高出力:471kW(640ps)/6000rpm
●最大トルク:850Nm/2300-4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・90L
●WLTPモード燃費:7.0km/L
●タイヤサイズ:前285/35R22、後315/30R22
●車両価格(税込):2851万円

ポルシェ パナメーラ4 Eハイブリッド プラチナエディション 主要諸元

●全長×全幅×全高:5050×1935×1425mm
●ホイールベース:2950mm
●車両重量:2285kg
●エンジン:V6DOHCツインターボ+モーター
●総排気量:2894cc
●最高出力:245kW(330ps)/5400-6400rpm
●最大トルク:450Nm/1750-5000rpm
●モーター最高出力:100kW(136ps)
●モーター最大トルク:400Nm
●システム総合出力:340kW(462ps)
●トランスミッション:8速AT DCT(PDK)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●WLTCモード燃費:ー
●タイヤサイズ:前275/35R21、後315/30R21
●車両価格(税込):1739万円

ポルシェの最新動向:特別モデル追加の911とBEVのニューフェイス

画像: 911スポーツクラシック。

911スポーツクラシック。

心をくすぐる限定モデルと新たな世界観のデビュー

ポルシェは、かつて獲得した栄光の歴史を見事なほど巧みに最新モデルへと活かす。こうしたヘリテージの生かし方には、必ず過去への敬意が込められているため、多くのファンを熱狂させるのだ。911最新スペシャルモデルが、1960~70年代への憧憬を表現した「スポーツクラシック」だ。 911RS2.7を彷彿とさせるリアスポイラーに萌える。BEVでは、SUVテイストを脱したタイカンスポーツツーリスモの導入にも期待したいところだ。

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