16代目クラウンの誕生を機に、各世代のカリスマ性を彩ってきた「はじめて」をあらためて紐解く特別連載企画。第4回は、1971年に誕生した第4世代「MS6#/7#型」をご紹介しよう。個性的なスタイリングは賛否両論を生み、販売的には不遇をかこったものの、今なお「クジラ・クラウン」の名で愛される忘れがたい存在である。(Motor Magazine Mook 「TOYOTA CROWN 13th」より)

ご当時インプレダイジェスト──71年式ハードトップSL

大きく長くアメ車的

国産2リッター車を代表し、60%ものシェアを持っていたトヨペット・クラウンは、外車自由化の迎撃体制確立のためモデル・チェンジを行ない、ネーミングもトヨペットからトヨタに変えられた。

画像: MS70型クラウン・ハードトップSLの角形2灯のヘッドライトはクラウン・ハードトップの伝統だ。

MS70型クラウン・ハードトップSLの角形2灯のヘッドライトはクラウン・ハードトップの伝統だ。

試乗したのは、スポーツ性の高いトヨタ・クラウン・ハードトップSLで、社内呼称M570KSと呼ばれる4速MT仕様。

外観上の印象は、寸法的に従来のクラウンを超えていないにも関わらず、随分大きくなったように見える。特に低く、長く見せるために考えられたボンネットは、前衛的なデザインを採用した企業の意欲を感じさせはするものの、実際のドライブでは視覚外に突き出している部分を意識しなければならない。フロント・オーバーハングは、短いほど運転しやすいものだ。フロントのバンパーは、ボディの一部をなしている。このバンパーを取り去ったらクラウンの形相は一変してしまうに違いない。

内装の印象は、いかにもアメリカ的なスポーツの感じが強い。細部のデザインは、いかにも日本のベストメーカーらしい造り慣れたキャビンに感じる。したがって、メーター類が見難いとか、ドライビング・ポジションに対する違和感といったものがまるでない。

フロント・シートは充分なサイズを持っていて、柔軟にドライバーとパッセンジャーを収容し、1~2時間のドライブではどんな体型の人にも不満はないだろう。特に、従来モデルではシートサイズが大きすぎて、ふとももを押し上げられるような傾向があったが、これも形状を変えて改良されている。キャビン内の雰囲気はスポーツ&ラグジユアリーというより、ラグジユアリーそのものだ。

良く粘るエンジン

 エンジンはM-B型で、基本的に大きく変更されたところはない。水冷・直列6気筒OHCのスクエア・タイプだ。庄縞比は9.5対1でハイオクタン燃料が要求される。キャブレターはSUタイプを2基装着されている。最高出力125ps/5800rpm、最大トルク16.5kgm/3800rpmを発揮する。

画像: SU型ツイン・キャブレターをコンビしたM-B型は、125ps/5800rpm、16.5kgm3800rpmの性能を発揮。

SU型ツイン・キャブレターをコンビしたM-B型は、125ps/5800rpm、16.5kgm3800rpmの性能を発揮。

多気筒エンジンの進上は、出力やトルクよりもスムーズな回転と静粛性にある。トランスミッションは、新工作技術によりイメージを一新したもので、シンクロナイザーの容量を向上させてシフト感を向上させている。特にリモート・コントロール・リンケージがなくなり、ダイレクトに操件するため、ルーズさが少なく、歯切れの良いシフト・フィールになった。

ギア比の配分は、従来のものよりも高めになり、ファイナルは従来通り4.111というセッティングである。0~100km/hまで加速するのに要するタイムは約13.6秒(3名乗車)。ストレスを感じさせない加速の伸びは期待できる。エンジン回転は5000rpmまで良く伸びてスムーズな吹きあがりをするが、5600rpm以上からバルブサージングを起こし始めていたようだった。

強いアンダーステア

乗り心地はいかにも柔軟で、平均的な国産乗用車に較べても柔らかな方に属する。前=ダブルウイッシュボーン、後=4リンク・コイルで、路面振動を吸収する能力は高いが、乱暴な運転をしようという気にはならない。

ワインディング・ロードで感じたことは、ひどくアンダーなステアリングで、タイトコーナーに強引に突っ込むと大きく外側に振り出される。ステアリング・ギア比は20.5~23.6のバリアブルで、ステアリング・ホイールは約4.5回転もする。

ブレーキは高速で好ましいが、低速になるに従って効き味は強烈になり、不注意に強い踏力を加えると食いつくように効く。前=ディスク、後=ドラムで前後共に9インチのサーボアシストが効くから強烈で軽いブレーキという印象が強い。(文:三本和彦)

■トヨタ・クラウン ハードトップSL 主要諸元

●全長×全幅×全高:4690×1690×1410mm●ホイールベース:2690mm●車両重量:1310kg●エンジン:直6SOHC●総排気量:1988cc●最高出力:125ps/5800rpm●最大トルク:16.5kgm/3800rpm●トランスミッション:4速MT●駆動方式:FR●当時の車両価格(税込):122.7万円

ご当時インプレダイジェスト──72年式2600ハードトップ スーパーサルーン

力の余裕と静かさと…

高級車におけるメリットは、美しいスタイルと豪華な内装、それに「楽に走れる余裕」と、いわば多分に精神的なものに左右されるものである。

画像: 1972年5月、4M型2600ccエンジンを搭載した2600スーパーサルーンが投入された。クラウン・エイトを除けば、シリース初の3ナンバーモデルの登場だ。

1972年5月、4M型2600ccエンジンを搭載した2600スーパーサルーンが投入された。クラウン・エイトを除けば、シリース初の3ナンバーモデルの登場だ。

特徴的なステップをもつフードのフィニッシュ、4角いヘッドライト、ボディと同色の一体化されたバンパーなどの外観はいずれも、もう見慣れたスタイルとなった。慣れてしまえば、誰もが文句を言っていた、ボンネットの前にあるもう一段のグリルも今では気にならない存在となった。

ボディ、室内共に仕上げはさすがにそつがない。まさに同クラスの外車、特に同価格クラスのそれと比較することは外車に気の毒になるのが、昨今の国産車のレベルである。

外車がいたずらにノックダウン政策を日本のマーケットに持ち込もうとしているのを、おうおうと心配している無能な経営者の鼻の先に両車をぶらさげてみたいものだとさえ思える。

豊富な装備品

コクピットでうれしい点はメーターが多いことだ。ウォーニング・ランプがなく、すべてメーターを使っている点は、むしろ趣味的であって良い。トータルカラーで仕上げた内張は高級な織物を贅沢に使い、雰囲気はスポーティというよりジェントルマン仕様といった感じである。

画像: SLグレードは3本スポークのスポーツ・ステアリングを採用。大径のタコ/スピードメータを備える。ダッシュ下端には懐かしのチョークレバーが。

SLグレードは3本スポークのスポーツ・ステアリングを採用。大径のタコ/スピードメータを備える。ダッシュ下端には懐かしのチョークレバーが。

4M型2563ccのSOHCエンジンは、130ps/5200rpm、20.0kgm/3600rpmの性能を発揮する。これに改良された3速ATのトヨグライドが組み合わさる。

ポジションDで普通に踏み込んで行った場合、メーターでは10km/hでセカンドに、20km/hでトップに入って、しかもスムーズなチェンジを示す。

Dレンジ5000rpmで約130km/h、5200rpmは140km/h、5000rpmを超えるとオーバーヘッドカムの快音が気持ちよく伝わってくる。そのころからようやくスポーティなムードがやってくるが、それまではまるで余裕のドライブそのものである。140km/h以上でもレスポンスはすこぶる良く、160km/hまでまるで抵抗なしに伸びる。

僅かのパワーアップによってトヨグライドは著しく逞しい性格を表すことが解った。クラウンをスポーティに使いこなしたいオーナーには2.6リッターはうってつけである。パワーステアリングは、適度にロードフィーリングを味わわせ、極めてシュアーにコントロールさせる。これも高く評価する価値と認められる。

一般にクラウンはソフトムードで頼りないと、思っている人は2.6リッターのスポーツ性を味わってみるべきだ。テスト車はラジアル・タイヤを履いていたこともプラスして、そのコーナリングはむしろ極めて高い信頼性のおけるものである。(成江淳)

■トヨタ・クラウン ハードトップ 2600 スーパーサルーン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4680×1690×1410mm●ホイールベース:2690mm●車両重量:1355kg●エンジン:直6SOHC●総排気量:2563cc●最高出力:130ps/5200rpm●最大トルク:20.0kgm/3600rpm●トランスミッション:3速MT●駆動方式:FR●当時の車両価格(税込):165.0万円

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