AMGのアイデンティティを確立させるため企画がスタート
0→100km/h加速がわずか3.8秒で、最高速はリミッター制御で317km/h。その上で、何よりもガルウイング方式のドアがシンボリックな存在であるSLS AMGが「SLRマクラーレンの後継モデル」と受け取られるのは、ある面で「必然」でもあるだろう。
しかし当のAMGは、このニューカマーを「フェラーリ430やポルシェ911ターボ、アウディR8 5.2などと同格のスーパースポーツで、SLRマクラーレンのような『スーパーカー』ではない」と言い切る。
その理由は「当初から低価格をターゲットに開発してきた点や、台数限定モデルではない点。それゆえに、生産キャパシティやコスト面に課題を残すカーボンモノコック式ボディの採用を当初から考えなかった点などにある」という。
すなわち、SLRマクラーレンに比べれば「はるかにアフォーダブル(=手頃な価格)なスポーツカー」というのが、このモデルに対するAMGの基本スタンスである。
ところで、SLS AMGの姿を初めて目にした人は、例外なく次のように考えることだろう。「これは、往年の名車である300SLへのオマージュを礎に開発された、現代へと蘇ったSLなんだな」と。
しかし、自分も抱いたそんな思いが実はまったく誤ったものであったことが、小さな所帯ゆえか、どんなジャンルの質問に対しても即座に適切な回答を返してくれるAMG本社広報担当者へのインタビューで明らかになった。
まず、このモデルの開発のきっかけとなったのは、2005年に新社長が就任してボードメンバーとの意見交換会が開催されたこと。この時、5人のボードメンバーがAMG社に対して各々があまりに異なる見解を抱くことに危機感を覚えた新社長は「ここはAMGのアイデンティティを確立させるためにも、1つの作品を創るべき」と、それまでのAMG社では経験がない新型車両の総合プロデュースという案を思い付いたという。
社内で新たなスポーツカーのレイアウトを描いて親会社であるメルセデスにその案を示すと、「これって昔の300SLに似ているね」という話題に。そんなプロセスを経て、2006年春に正式なプロダクション化へのGOサインが与えられ、生産化に向けての作業がスタートするに至ったという。
つまり、プロジェクト発足当初には「300SLへのオマージュ」などという思いはまったくなく、ましてや「ガルウイングドア」のアイディアなども存在しなかった。こうして「数奇な運命(?)」の下に誕生したのが、SLS AMGというモデルである。