水平対向エンジンの乗り味をロングツーリングで試す
ロングツーリングが好きだ。私のこの思いに、きっと多くのクルマ好きの人々が共感してくれるのではないだろうか。夢と期待に満ち溢れた旅に、自分のクルマで出かける。長い時間を過ごすうち、これまで気づかなかった魅力を発見して愛情がさらに深まることもあるだろう。
そもそもロングツーリングであれば、好きなクルマといつも以上に長く一緒にいられるのだから、楽しくないわけがない。「クルマ好きはロングツーリング好き」と私が信じる理由も、これでご理解いただけたことだろう。
今回、編集部が用意した「ロングツーリングの伴侶」は、2台のスバルWRX S4だ。モータースポーツのDNAを受け継ぎながらも、「静粛性や乗り心地などのあらゆる性能を磨き上げた」というスバルのAWDパフォーマンスを象徴するモデルである。ボディ形状が実用性に優れた4ドアセダンであるところも、ロングツーリングにぴったりといえる。
それとともに楽しみにしていたのが、水平対向エンジンがもたらしてくれるロングツーリングの快適性にあった。以前、スバルの技術者から「重心の低い水平対向エンジンは、ハンドルの座りを良くする効果があるから、長距離ドライブでも疲れにくい」という話を聞いていたので、今回の旅でこの点も是非、確認してみたいと思っていたのだ。
恵比寿のスバル本社で「STI スポーツR EX」と「GT-H EX」の2台を借り出した取材班は、まず河口湖近くまで移動して撮影をこなすと、進路を北にとって長野県松本市を目指した。
このルートでまず感じたのは、新開発の2.4Lターボエンジンのドライバビリティが優れていること。排気量が拡大されたおかげでボトムエンドから十分なトルクを生み出してくれるうえ、そこから過給器が活躍し始める回転域までの過程が滑らかで、実に扱いやすい。回転バランスが良好なことは水平対向だから当然としても、エンジン音がおしなべて静かなことも、ロングツーリングに好適なキャラクターとして評価できる。
もうひとつ、2台の試乗車には最新のアイサイトXが搭載されていることも心強かった。これがあれば高速道路走行時の速度調整や車線維持をサポートしてくれるのはもちろん、カーブや料金所の手前で自動減速してくれる点も嬉しい。しかも、一定の条件を満たせば渋滞時にはハンズフリー走行も可能。ロングドライブの疲れを大きく軽減してくれるはずだ。この日はおよそ270kmを走って長野県松本市に投宿した。
高速道路から山岳路までドライバビリティは実に高い
猛暑続きだった今年の夏もひと休みなのか、2日目の天候は幸いにも曇り空。時おり小雨もぱらつくが気温は低めでむしろ快適。また湿った路面はスバルAWDの実力を図る上で好都合ともいえる。
この日は、大町を経て一般道を北上。JR大糸線、そして姫川に沿ってまずは糸魚川を目指す。せっかく来たのだからとスキー場のメッカである白馬八方や栂池高原あたりに寄り道をする。昼食にどこかいいお店がないかと探すと、幸いに営業中のそば処があったので入る。ここは手打ちそばだけではなく、ジンギスカンも名物メニューとのことで、思わずどちらもオーダーしてしまう。
その寄り道の最中に出会ったワインディングロードでは、WRX S4の優れたハンドリングを見極めることができた。そこまでの印象を率直に述べれば、GT-H EXは長いサスペンションストロークを生かしたゆったりした乗り心地が特徴的で路面のゴツゴツ感を吸収するのも上手い。
対するSTI スポーツR EXは、ホイールの位置決めが正確なほか、高速域では強力なダンパーがフラットな姿勢を厳密に維持してくれるものの、低速域では路面からの振動を正直に拾う傾向が強く、快適性の点ではGT-H EXに一歩及ばなかった。
ところがワインディングロードでは、STI スポーツR EXの強力なダンパーがシャープな回頭性を実現。しかも、ボディをフラットに保ち続けるので4輪の接地荷重が常に均等に揃えられ、安定したグリップを生み出してくれた。簡潔に表現すれば、とびきりレスポンスが良好なのに安心感の強いハンドリングを堪能できたのだ。
一方のGT-H EXは、安心感に優れているのだが、サスペンションストロークがたっぷりしているため、素早いコーナリングでは操舵してから実際にターンインが始まるまで本当にわずかな「間」が認められる。
もちろん、この程度の「間」は日常的な運転ではまったく感じられないはずで、たとえ積極的なコーナリングを試しても、ドライバー自身がかなり感度を上げて走らない限り気づかないレベルだ。したがって快適性を重視するドライバーにはGT-H EXを、ワインディングロードでのハンドリングに重きを置くドライバーにはSTI スポーツR EXがお勧めといえる。