2009年、5代目フォード マスタングが内外装を一新して登場した。ルーフ以外の全てのボディパネルを変更、より筋肉質なデザインとなっていた。ここでは2010年モデルとして上陸後まもなく行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年1月号より)

憧れのクルマ第一号もマスタングだった

The Bucket List(ザ・バケット・リスト)というのがある。「最高の人生の見つけ方」(邦題)というモーガン・フリーマンとジャック・ニコルソンが主演した映画の中に出てくる言葉だ。

これは人生の残された時間にやり残したことをリストにしたもの。その中でモーガン・フリーマンが演じる老自動車工のカーターがマスタングを運転することをリストに挙げるのだ。カーターは語る。「マスタングを運転するのが夢だった」と。彼にとって、それほどマスタングは憧れの存在だったということなのだろう。

カーターに限らず、クルマは人生を楽しませることができるものだと思っている。どんなクルマであれ、憧れていたクルマに乗ったときに湧き上がる感動は、生活に潤いを与えてくれるだろう。それが子どもの頃から憧れていたものであればなおさらだ。

実は、私の憧れのクルマ第一号もマスタングだった。小学校への通学路に駐めてあったオレンジ色のマスタングだ。スペックやバックボーンも知らない子どもがそのスタイルを見て素直な気持ちで格好いいと思ったのだ。その記憶は今も鮮明に残っている。

そんなマスタングが、新しくなった。新型は、ルーフパネル以外すべてのデザインが変更されているという。スタイルは現代風だが、ロングノーズ、ショートデッキは記憶の底を刺激するものがあり、懐かしささえ感じられる。また、誕生以来45年ぶりにギャロッピングホースのデザインも変更された。

その象徴的な「野生馬」のアイコンは、それほど多くないがフロントグリルやステアリングホイールのセンター、エンジンヘッドなど要所要所に配されている。グリルのギャロッピングホースは少し控えめだが……。

シートに座ると大きな2眼メーターが視界に入ってくる。ここも伝統が感じられる部分だ。メーターのバックライトは明るいとホワイト、夜間やトンネルなどまわりが暗くなると125通りにカスタマイズできるイルミネーションの中からチョイスした色に変わる。

今回はアイスブルーを選択してみたが、それにより鮮やかにも妖艶にもマスタングは変身する。ドライブのシチュエーションやパートナーによって変更するのもいいかもしれない。このイルミネーションは、足下やスカッフプレート、カップホルダーにも採用されているので夜間はとてもきれい。夜になるのが待ち遠しくなるほどだ。

画像: スタイルは現代風だが、ロングノーズ、ショートデッキの基本シルエットはかわらない。

スタイルは現代風だが、ロングノーズ、ショートデッキの基本シルエットはかわらない。

聞かせること、見せることを意識したV8エンジン

今回の試乗は600km近くを走り、給油を2度行った。その間の燃費計による表示は、信号が多い都内でも順調に走っていれば7km/L台をキープできる。高速は流れに乗ると8km/Lから9km/L台の前半と4.6L V8エンジンとしては優秀なものだ。燃料タンク容量は60Lと、この排気量のクルマとしては小さいが、ガソリンはレギュラー仕様なのでサイフには優しい。

試乗は、一般道、高速道路、山岳路とさまざまな場所で行った。また天候は雨天(それも土砂降り)、晴天、強風、路面もウエット、ドライとさまざまな場面でテストドライブができた。

なにより感心したのは、どのような状況下でも安定した走りができたこと。マスタングは、どこまでも続く真っ直ぐな道こそが本来の姿で、ワインディングはちょっと苦手かな、と試乗前は勝手に思い込んでいたのだが、そんな危惧も必要なかった。

これには車両安定装置「アドバンストラック」も貢献しているようだ。これはトラクションコントロール、ABS、ESCを統合制御し、車両の状態を判断して適切なホイールやエンジンの出力を制御して横滑りやスピンを回避するシステムだ。

運転席からはボンネットのパワードームが視界に入り、サイドミラーからはフェンダーのふくらみも見える。筋肉質なマスタングに乗っていることを意識する瞬間だ。

気になっていたボンネットを開けてみた。するとエンジンヘッドにギャロッピングホースが現れる。エンジンルームも見られることを前提にデザインされているようで好印象だ。エンジンの中心は、フロントアクスルの後方に位置する。前軸重が880kg、後軸重が740kg、前後重量配分は54:46だ。どおりでフロント部の重さをさほど感じなかったわけだ。

試乗中、とくに便利だと思ったのは、リバースに連動してリアカメラの映像がルームミラーに映し出されるところ。車庫入れやバックがそれほど苦にならなかったのは、それが一番の要因だろう。

逆に、不便だと感じたのはリアのハッチバックを開けるスイッチ。シフトレバー横、ハザードスイッチの下に配置されるのだが、ここはつい押したくなる場所だ。ハザードと間違えることもあるかもしれない。実際、信号待ちの時に押してしまったことが2回、ハザードと間違えて押してしまったことが1度あった。その度に、自分に毒づきマスタングを降りてハッチバックを閉めることになるのだが……、ぜひとも、もう少し手の届きにくいところにレイアウトして欲しい。

ラゲッジルーム容量は、クーペタイプの割に容量も大きく不満がないレベルが確保されている。しかし、開口部が小さいため、大きなスーツケースなどは入れるのに苦労するかもしれない。

ただ、そんなことは些細なことだ。マスタングの魅力は、なんといってもそのスタイルとV8のサウンドにある。伝統的なスタイルを眺め、エンジン音を聞く度に気持ちが高ぶることだろう。

いつもと同じ風景だって、マスタングの中からなら違って見えるはずだ。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:永元秀和)

画像: パワードーム下にはヘッドにギャロッピングホースが配されたV8エンジンが収まる。見られることを前提にしている点も好印象だ。

パワードーム下にはヘッドにギャロッピングホースが配されたV8エンジンが収まる。見られることを前提にしている点も好印象だ。

フォード マスタングGT クーペプレミアム 主要諸元

●全長×全幅×全高:4785×1880×1415mm
●ホイールベース:2720mm
●車両重量:1620kg
●エンジン:V8SOHC
●排気量:4600cc
●最高出力:235kW(319ps)/6000rpm
●最大トルク:441Nm/4250rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●タイヤサイズ:235/50ZR18
●車両価格:480万円(2009年当時)

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