クラフトマンシップ溢れるインテリア
8月の終わり、北海道に飛んだ。新千歳空港を出ると、実にさわやかな気候。関東エリアは、酷暑は落ち着いたもののまだまだ湿度が高かったので、その不快さから開放されただけでも気分が上がる。
コロナ禍以降、初の行動制限のない夏休みを最後まで楽しもうという人たちも多いのだろう、空港の駐車場はほぼ満車だった。そんな中でもひと際オーラを放っていたのが、「ベントレー フライングスパー」。
オーラもだけど、1台だけ鼻先がパーキングスペースから飛び出している、全長5mを超える立派な体躯そのものの存在感たるや、キャンブリアングレーという、シックなボディカラーにもかかわらず圧倒的。そしてこのクルマが、泊日の北海道グランドツーリングのパートナーだ。
さっそく運転席に乗り込むと、室内はブラック基調で、レザーやカーボンなどのマテリアルが贅沢に使われている。内外装ともに、クロームメッキやダイヤモンドカットのデザインでキラキラ輝いているが、まったく嫌味がなく放つ光までもが上品に見える。
ベントレーに乗るたびに感じるが、ものすごい高級車で、高級な素材を使ったクラフトマンシップ溢れる空間で、イギリス車ならではの「クラス感」がありながらまったく威圧感を感じさせず、温かみがあるのだ。シートに座った瞬間、適度な緊張感は抱きつつも安心感の方が上回るのが不思議な感覚だ。でも、過度な緊張を与えないのも、ベントレーが謳う「ウェルビーイング」に繋がると思う。
まず最初に向かったのは、「ノーザンホースパーク」。空港からクルマで分の好立地にある、「馬と自然とひとつになる」をコンセプトとしており、さまざまなアクティビティがあるが、引退した競走馬が乗馬やショーでセカンドキャリアを過ごしている。
リビングにいるような寛げる車内空間は会話も広がる
クルマに戻った後、競馬事情に詳しい編集長から、馬の血統、種付け、馬主になる方法などなどとても興味深く、トリビアな話を聞いた。編集長との付き合いはそこそこ長いが、こんなにクルマ以外の話をしたのは初めてかも。共有した経験を元に会話が広がる。
これもクルマ旅の魅力のひとつだろう。公共の場での会話を控えなければならない昨今はとくに。そして、リビングにいるような寛いだ空気感で静粛性の高いフライングスパーだから、なおさらだろう。
さて、ランチタイムとなり、程近い苫小牧港に移動。市場めしのゴージャスな海鮮丼を頼んだが、味も価格も観光客向けだったのが残念。ま、こういう旅の失敗も思い出のひとつなのだけれど・・・。
気を取り直し、登別へ時間ほどのドライブ。入浴剤にもなるほど温泉地として有名だが、温泉が湧き出る大沼湖は硫黄のにおいが凄くて、最深部では130度にもなるという。源泉はあちこちで見たことがあるが、やはり北海道は雄大でスケールが違う。
陽が傾きかけた頃、東日本最大の吊り橋、「白鳥大橋」を渡り、昭和新山に行く。北海道のサイズ感に合わない小さな山、と思ったが、これが一晩でできたと考えると自然のパワーを感じる。あちこち巡り、ホント、取材というより心底、観光気分に浸ってしまった。
それにしても北海道は、豊かな、そして厳しい自然を感じられるスポットが点在しており、その点を結びながら移動できるのはクルマ旅ならではだ。各地で撮影をしたが、フライングスパーはどんな景色をバックにしてもしっくり溶け込み、それでいて、この雄大さにまったく負けることのないサルーンらしい優雅な佇まい、でもノーブルで威風堂々としているフォトジェニックなクルマだ。
裏事情を明かすと、自動車誌のグランドツーリング企画は通常、1日で結構な距離を走る。しかも撮影しながらなのでかなりタイトで、実は景色や観光を楽しむ余裕はあまりない。が、この日の移動距離は約200kmでのんびりペースだった。これも、フライングスパーのなせる技なのだろう。初日から、優雅な旅を楽しむベントレーオーナー気分を堪能できた。
2日目は、洞爺湖を出発し、寄り道しながら函館を目指す。まずは、真狩(まっかり)村を経由して日本海に面した寿都町(すっつ)。それにしても、北海道の地名の読みは本当に難しい。
日本海は暗くて寂しいイメージを抱いていたが、ここのキレイな海を見てイメージが一新された。新たな発見も旅の楽しみのひとつ。洞爺湖から約時間のドライブだが、北海道も高速道路が充実して移動が俄然、楽になった。
ロングドライブはグランドツアラーであるベントレーにとって大得意。V8エンジンは550ps/700NMの強烈なパワーを持つが、クルージングではゆとりあるトルクを、追い越し加速では瞬発力を感じつつ、決して出しゃばらない性格だ。そして、真っ直ぐ走っているだけでも飽きない。