現実的で汎用性の高い技術
ドイツの環境イメージカラーである「青」と「効率」を掛けてブルーエフィシェンシー。メルセデス・ベンツの環境技術の総称である。
CO2の排出量削減に関してあらゆる手を尽くしている感のある同社だけに、そこに盛り込まれている要素は多岐に渡る。先頃日本にも上陸し、今後システムの多様化も含め展開を増やす予定のハイブリッドはもちろん、E-CELL(電気自動車)、F-CELL(燃料電池車)もその一環となる。
さらに、ドライバーへの経済走行に関する情報の伝達、軽量化、転がり抵抗や空気抵抗の低減、リサイクル率の向上や、車体への天然素材の活用まで、クルマに関わる環境への包括的に取り組みが、このブルーエフィシェンシーという言葉には含まれている。
とは言え、もっとも現実的で汎用性の高い技術が、内燃機関の効率向上であることは間違いない。そしてその2本柱となるのが、排出ガス中に尿素水溶液を噴射し、SCR触媒コンバーターでNOxの80%低減を実現するブルーテック ディーゼルと、今回Eクラスで試すことができた直噴ガソリンエンジンのCGIというわけだ。Eクラスに新しく加わった250CGIブルーエフィシェンシーは、排気量を想起させるネーミングに反して1795ccの直列4気筒エンジンを搭載。つまりダウンサイジングを行っているのだ。以前の2.5L V6を直列4気筒に置き換えることで、重量やフリクションの低減を実現するのが狙いである。
6気筒に代えて4気筒を搭載するのは、Eクラスだけで考えるとかなり新鮮に感じるが、Cクラスでは同じ1.8Lにスーパーチャージャーを組み合わせたC200コンプレッサーがかねてから展開されていた。小排気量から大トルクを得るという点ではこれもダウンサイジング。メルセデスベンツにとって、考え方としてはとくに新しいものではなかったはずだ。
ただ、過給によるパワーサプリメントは、C200コンプレッサーで使われたスーパーチャージャーではなくターボを使っている。シリンダー内に直接ガソリンを噴射する直噴は、燃焼室の冷却効果が得られるため、圧縮比を上げてもノッキングが起こりにくく、低速トルクの増強に有利な高圧縮比化は過給効果が得にくいターボの低回転域の特性をフォローできるため、ターボと相性が良いとされる。
つまり、これまで低回転域のレスポンスに優れるからとスーパーチャージャーを好んで使っていたメルセデスが、ここに来てターボにスイッチしたのは、直噴化あってのことに違いない。もちろん、機械式のスーパーチャージャーよりターボの方がより軽量で、駆動音も少ないなど他のメリットも少なくはなかったはずだし、タービン自体の効率の改善もあったのだろうが。
直噴+ターボの効果大、2.5L V6を凌ぐ性能
そのE250CGIブルーエフィシェンシーを走らせた印象だが、正直ちょっと複雑な気分になった。
力は十分にある。いや、有り余っていると言っても良い。最高出力204psは以前の2.5L V6と同じだが、最大トルクが310Nmと6Nmも大きい。しかもそれを2000〜4300rpmとかなり低い領域から発生させている。体感的にはアイドリング領域から十分なトルクが感じられるこの力強さは、まるでディーゼルエンジンのようだ。
ディーゼルエンジンだと、高回転域はダメでせいぜい4000rpm止まり、代わりにそこに至るまでのズ太いトルクでグイグイと引っ張らせて行くのが快感になる。E250CGIにもこうした小気味良さがある。そして、それと同時に6300rpmからイエローゾーンが始まるレブリミットに向けて、素直に吹け上がっていく伸びの良さも併せ持っているのである。
これはかなり新しいパワーフィールだ。C200コンプレッサーのスーパチャージャーが出力のアドオンだけの黒子に徹しているのに対し、E250CGIでは過給が味わいになっている。新しい環境技術に触れているという満足感も含めて、ひとまず動力性能面の魅力は大きいと感じられた。
ただ、走りの質に関しては、様々な感じ方があるはずだ。遮音が行き届いているためボリュームは低いが、4気筒特有のコロコロとした音質は耳に届いて来る。振動面もバランサーシャフトの採用など対策は講じているものの、6気筒ほどの滑らかさはない。
さらに、4000rpm手前の回転域からはギャーンといった感じの、少々荒っぽいノイズも入って来る。この音質はC200コンプレッサーでも感じる。これまでスーパーチャージャー系の音と解釈していたのだが、どうやらこの4気筒エンジン特有のもののようだ。
もうひとつ残念なのは、E250CGIのトランスミッションが5速ATということ。セダンのEクラスとしては初めて、コラムレバーでモードを選ぶダイレクトセレクトではなく、通常のフロアシフトとなったのは操作性の面で個人的には歓迎だが、5速100km/h巡航で2250rpmとトルクの太いクルマとしてはやや回り過ぎの傾向があるし、各ギアでの回転も引っぱり気味になり、回転変動が大きくノイズを意識してしまう。変速ロスを嫌ったのかもしれないが、7速になればさらにこのエンジンの良さを引き出せるのではないだろうか。
もちろん、E250CGIが4気筒だと了解して乗るのなら、これらは大きな欠点とはならない。それに代わる魅力はパワーフィールや経済性など数多くある。中でも僕が独特の味わいだと感じたのがハンドリングだ。E250CGIは6気筒に比べエンジンが軽いため、身のこなしがとても軽快。もちろん乗り心地の良さは新型Eクラスの血統でこのクルマでも健在だ。
要はEクラスを高級車と捉え、滑らかさや質にこだわると、やや肩すかしを感じるかもしれないということ。一方、実用に重きを置くなら、これほど魅力的な選択はないと思う。E250CGIはベースモデルなので、価格もクラスの中で最もお手頃だから。
とくに高速で伸びる燃費、エコカー減税の対象にも
ちなみにE250CGIブルーエフィシェンシー アバンギャルドは、輸入ガソリン車として初めてエコカー減税対象車の認定も取得した。車齢13年以上のクルマから乗り換えれば25万円補助、それ以外でも10万円の補助金が出る上、重量税と取得税の50%減税も受けられる。さらにグリーン税制も適用されるため、翌年の自動車税も25%減税される。この制度は重量と燃費の兼ね合いで決まる関係上、軽くて燃費がより良い標準車は対象にならず、セダンのアバンギャルドだけというのがちょっと興醒めだが、最大限に活用すれば仕様差額は埋まるはずだ。
さて、最後に注目の燃費だが、やはり過給エンジンは回すと悪化する。今回ワインディングロードでの区間燃費は6.2km/Lだった。常にターボを使う領域で走るため、これは致し方のないところ。
一方、負荷の少ない高速道路上ではかなり伸びるのがダウンサイジングターボの特長で13.4km/Lをマーク。Eセグメント車としては立派な数値と言えよう。さらに、ストップ&ゴーの多い市街地では8.1km/L。600km弱での平均燃費は9.5km/Lとなった。試乗したのは10・15モードが10.8km/Lと発表されるアバンギャルド(標準モデルは11.4km/L)だから、これはなかなか優れた数値だ。とくに高速移動の多いユーザーはその恩恵を存分に味わえるに違いない。
また、このエンジンはCクラスにも搭載される。こちらはさらに良好な燃費が期待できるわけで、250CGIがメルセデス・ベンツの新しい中核エンジンとなるのは確実だろう。
しかし同社のCGI戦略はまだまだ続くはずだ。ダウンサイジングは各クラスでさらに活発となるだろうし、Eクラスには2000バールの高圧をピエゾインジェクターで精密に制御し、希薄燃焼を行うスプレーガイデッド式ガソリン直噴のE250CGIもある。これも機が熟せば日本の地を踏むはず。いずれにせよブルーエフィシエンシーの今後からは目が離せない。(文:石川芳雄/写真:村西一海)
メルセデス・ベンツE250CGIブルーエフィシェンシー 主要諸元
●全長×全幅×全高:4870×1855×1470mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:1680kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1795cc
●最高出力:150kW(204ps)/5500rpm
●最大トルク:310Nm/2000-4300rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:11.4km/L
●タイヤサイズ:225/50R16
●車両価格:634万円(2009年当時)