究極のSUVづくりへ挑戦したアストンマーティンの開発チームによって、「最速、最強、最良のハンドリング」を実現したDBX707。このラグジュアリーかつハイパフォーマンスなSUVの真価を味わう。(Motor Magazine2022年11月号より)

大きなフロントグリルはDBX比+157psの証

「単なるハイパフォーマンスなSUVにするのではなく、DBXと変わらない快適性や燃費の実現を目標としました」

画像: 4L V8ツインターボエンジンは、ボールベアリングターボチャージャーの採用や専用のキャリプブレーションが施されている。

4L V8ツインターボエンジンは、ボールベアリングターボチャージャーの採用や専用のキャリプブレーションが施されている。

イタリアサルディーニャ島で行われたアストンマーティンDBX707の国際試乗会において、シニアビークルエンジニアリングマネージャーのアンディ・トクリー氏はそう教えてくれた。

DBX707は、標準モデルのDBXをベースに、4L V8ツインターボエンジンの最高出力を550psから707psまで引き上げたモンスターSUVである。これだけの高性能を実現するには、快適性や燃費性能、場合によってはドライバビリティが犠牲になったとしてもなんら不思議ではない。

けれども、トクリー氏らエンジニアたちはそうなることを許さず、「高性能だけれど快適性や燃費性能はDBXと同等にする」という、なんとも欲張りな目標を掲げDBX707の開発にあたったのである。果たして、彼らの目論見は成し遂げられたのだろうか?

その結論をつまびらかにする前に、まずは概要を紹介しよう。心臓部たるパワートレーンは、メルセデスAMGが開発したV8ツインターボエンジンに大型のターボチャージャーを装着。最大過給圧を0.5bar引き上げて1.74barとした。当然、フルパワーにすれば、その燃料消費はDBXを上回るが、500psを越えない範囲でいえば、DBX707の燃料消費はDBXと何ら変わらないという。

トランスミッションはDBXの一般的な9速ATではなく、湿式油圧多板クラッチを用いた9速ATに改められた。その動作は素早く、しかもスムーズで、トルクコンバーターがないにもかかわらずシフトショックはほとんど感じられず、変速時のトルク切れも最小限に留められている。また、リアに電子制御式リミテッドスリップデフのデフを装備したことも、DBXにはない新機軸である。

冷却性能を高めるとともに磨かれた空力フォルム

フロントはダブルウイッシュボーン、リアはマルチリンクのエアサスペンションという足まわりの形式は同一ながら、トクリー氏は「サスペンションストロークのスピードや位置にもよるが、減衰力はDBXに対して5%から30%の範囲で引き上げた」という。

画像: 707psというSUV最強のエンジンパワーをもっていても、街中ではスタンダードなDBXと同等の快適さだ。

707psというSUV最強のエンジンパワーをもっていても、街中ではスタンダードなDBXと同等の快適さだ。

一方で特筆すべきは、カーボンセラミックブレーキの採用によりバネ下重量を40.5kgも軽減した点だ。このあたりがどう作用したかについては、後述させていただく。

エアロダイナミクスも大幅に見直された。まず、最高出力を157psも引き上げた影響でエンジンの発熱量が増加したが、これに対応するためにフロントグリルを大型化し、大量の冷却気を取り入れられるようにした。

さらに、リアスポイラーを大型化するなどした結果、最高速度に近い190mph(約304㎞/ h)時のリフトをゼロに近い23㎏ に抑えたという(トクリー氏によれば「世にあるSUVはすべてリフトを発生しており、ダウンフォースを生むモデルは存在しない」という)。これも空気抵抗が増えてもおかしくない要素だ。

しかし、サイドステップの形状を見直すなどしてホイールまわりの乱流を抑え、ドラッグをDBXと同じレベルに抑えたという。これが燃費の悪化を未然に防いだことはいうまでもない。

私はこれまでに国際試乗会で1度、そして国内で2度、DBX707をドライブした。このうち、国内では一般道やワインディングロード、高速道路などの他に大分県のオートポリスサーキットをかなりのペースで走行した。ここでは、それらの経験を踏まえてインプレッションをお届けしよう。

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