さすがはBMWと思わせるハイブリッドシステム
2基のターボチャージャーを含めた排気系すべてをバンク内側に収める特徴的なレイアウトはそのままに、「その直上」にインバーターを置いたのは驚きだった。当然、耐久試験は十分に行っているのだろうが、最高1000度近くに達するであろう高熱源の上に電子機器をマウントした点に、まずは開発陣の自信の表れを見た思いがする。
ただし、そんなレイアウトゆえにエンジンフードはそれを避けるための膨らみを設けた新形状。このパワードームが専用ボディカラーのブルーウォーターメタリックやテールケート下部に配されたモールディングなどとともに、ハイブリッドモデルであることの証となる。
通常のX6と同様、プッシュ式のスタートボタンを押してシステムを立ち上げる。この際、エンジンが直ちに始動するか否かは、トヨタのモデル同様にエンジン暖気状態やバッテリーの充電状態などの諸条件に依存する。
日常シーンでの発進では、多くの場合30〜40km/h程度まではエンジンが始動せずモーターのみの力で行われる印象。逆に、おおよそ60km/h以下でアクセルペダルをリリースすると、エンジンは即座に停止する。ダイムラー/GMとの3社で共同開発をした2モーター2モード式のシステムだが、「60km/hまでの高速域でモーター走行を可能にしたのはウチだけ」と開発担当エンジニア氏。「ヨーロッパでは多くの市街地が50km/h規制なので、そこはEVとして走らせたい」というのがこうしたチューニングに決定した理由であるという。
課題と感じたのは、速度が落ちて静止寸前になると感じられたわずかなショック。後に確認すると、これは1、3、4、6速が固定ギア比で、残りの3ポジションを電気式CVTの機能を用いてバーチャルギア比に設定というトランスミッションが、2組のCVTのモードを高速→低速に移行する際に必ず3速ギアを経由するという動作のため発生する「宿命的なショック」と判明した。
確かに「わずかと言えばわずか」だが、一方で「気になると言えば気になる」のがこの瞬間。この先、より軽量のクルマにこのシステムを採用しようとなると、さらなる影響が感じられるかもしれない。
ストップ&ゴーを繰り返したマイアミ市街を離れ、フリーウエイへと乗り込んでアクセルペダルを深く踏み込んでみる。もちろん加速力は文句ナシのレベルではあるのだが、それでも率直に言って50iグレード比で78psと180Nmのプラスをそのまま実感というイメージまでには至らなかった。
やはり、260kgも増した重量に相殺された部分が否めないのだろう。一方で、テスト車はオプション設定の20インチホイールを履いていたが、ランフラットタイヤを組み合わせることもあって低速域ではやや粗さを感じるものの重量増そのものが乗り味に「悪さ」を及ぼしたとは思えない点や、電動化されたパワーステアリングがしっかりと反力と路面コンタクト感を伝えてくれた点などは、さすがはBMWと感心できた。
ただし、0.3Gまでの減速回生力発生と油圧システムの協調を目指してバイワイヤ化されたブレーキが生み出すフィーリングが、踏み込み当初は減速Gが低く後にやや急に立ち上がり気味なるなど、踏力と減速Gの関係にわずかにリニアさを欠く印象があったのは、同様のシステムを用いるトヨタ車の場合と同じで、改善の余地がある。
「X5のエフィシエントダイナミクスはディーゼルで狙う。それゆえに、ハイブリッドを設定するのはX6だけ」というが、現在のところ、日本導入はまったく白紙。『ハイブリッドカー=超低燃費』という等式ができ上がった市場への導入には慎重にならざるを得ないのはごもっとも。が、それでも「ハイブリッドにも色々ある」と今後のクルマ選びの選択肢を広げて貰う意味からも、ぜひとも導入に至って欲しい1台であることは間違いない。(文:河村康彦)
BMW アクティブハイブリッド X6 主要諸元
●全長×全幅×全高:4877×1983×1697mm
●ホイールベース:2933mm
●車両重量:2450kg
●エンジン:V8 DOHCターボ+2モーター
●排気量:4395cc
●エンジン最高出力:300kW(407ps)/5500-6400rpm
●エンジン最大トルク:600Nm/1750-4500rpm
●モーター1最高出力:67kW(91ps)/2750rpm
●モーター1最大トルク:260Nm
●モーター2最高出力:63kW(86ps)/2500rpm
●モーター2最大トルク:280Nm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:4WD
●EU総合燃費: 10.1km/L
●タイヤサイズ:255/50R19
●最高速:236km/h
●0→100km/h加速:5.6秒
※EU準拠