ありとあらゆる部分が、実は特別誂えみたいなもの
モータースポーツで数々の栄光を手中にし、その世界の熱さをドライバーが垣間見ることのできたかつてのようなクルマ作りに、最新の技術や素材を使って現代のやり方で取り組もう、ということでもある。そのために長い沈黙を破って、根幹となるモデルには後輪駆動もしくは後輪駆動ベースの4WDを採用することにした。
一説には、軽く1000億円を越えるといわれるコストをかけて後輪駆動のための「ジョルジオ」プラットフォームを開発した。2.9L V6ツインターボのフラッグシップエンジンのほかに、カムシャフトではなく油圧ピストンでインレットバルブを駆動することで吸気の自由度を高めるマルチエアシステムを採用する、専用エンジンも新開発した。
プロダクションモデルでありながら、軽量化と重量バランスのため、カーボン製のプロペラシャフトを全車に惜しみなく与えた。同じ理由で全車のフロントフェンダーとドアのアウター、エンジンフード、ジュリアについてはルーフまでもがアルミニウム製となった。
他にも、まだまだ並べ立てるべき要素はたくさんあるのだけど、いや、もうそれこそキリがない。ここをしっかり理解している人はあまり多くない気がするのだが、普通に販売されているジュリアとステルヴィオのありとあらゆる部分が、実は特別誂えみたいなものなのである。そんな風にして作り上げられたクルマがつまらないわけないだろう、ということは、クルマ好きなら簡単に想像できるはずだ。ありとあらゆる部分が、実は特別誂えみたいなもの
現在、ジュリアとステルヴィオの4気筒モデルには、それぞれ2種類の個性がラインナップされて
いる。TIはトゥーリズモインテルナツィオナーレ(=ツーリング・インターナショナル)で、エント
リーグレードにしてグランドツアラー的な要素を持つ。ヴェローチェはその名のとおり「速い」モ
デルで、アルミ製の変速パドルやLSDが備わることからもわかるとおり、スポーツグレードである。
スペックよりも乗り味で評価。抜群に気持ちが良いジュリア
最初は基本形ともいえる、ジュリアTIだ。ヴェローチェと比べると、80psと70Nmも大人しいエンジンのスペックは物足りないんじゃないか?と思えるかもしれない。ところが少し走らせてみると、そんなことは微塵もないのが瞬時にわかる。
発進直後の1750rpmで最大トルクの330Nmを発生するこのエンジンは、いうなれば全域トルク型。どこからアクセルペダルを踏み込んでいってもスムーズに力強く加速する様子と持ち前のシャープなレスポンスはなかなか気持ち良い。変速パドルはないが、セレクターでのシーケンシャル操作は受け付けてくれるから、峠道だって十分に楽しめる。
ただし本来の性格として、高回転域まで積極的に回すよりも、厚みのあるトルクを活かして適度+αくらいのペースで走る方がさらに気持ちいい。大人のためのジュリア、といった感じだ。ただ、静かな中にも昔のアルファロメオを彷彿とさせる歯切れの良いサウンドが聞こえてくるので、ついその気になってしまうのだけれどね。
やっぱりそういう走らせ方を楽しみたいなら、ヴェローチェの方が似つかわしい。走り始めた直後は、感覚的にTIと大差がないように感じられるが、中回転域から高回転域に向かっていく時の伸びが違う。シャープさも一段上だし速度もはっきりと乗りがいいし、まさに胸がすくようなスポーツエンジンだ。
コーナーから立ち上がって加速していく時なんて、思わず口元が緩むほど。個人的には2L直4ターボではもっとも好きなエンジンで、抜群に楽しい。そしてTIにもヴェローチェにも共通してるのは、身のこなしの見事さである。ギア比が11.7対1という超クイックなレシオを備えるハンドルをスッと切り込むと、ノーズが瞬時に鋭く内側に向こうとする。
そのシャープな動きを、ホイールベース長めの安定方向のシャシが受けとめる。気持ち良くターンインを決められるのに、そこから先は危なげなくコーナーを素早くクリアできるのだ。
サスペンションも硬めではあるが動きそのものはしなやかで、きっちり路面を捕らえ続けてくれる。姿勢はニュートラルを保ち続け、よほど無茶をしない限りオーバーステアに転じようとする動きを見せたりはしない。曲がることが楽しい。気持ち良い。癖になる。
LSDが備わる分だけヴェローチェの方が濃密な感触だが、どちらのジュリアもまさにここが真骨頂。これほどの曲がりっぷりを見せてくれるセダン、他に知らない。