プリウスとの違いをどう出すか、キーワードは“小さな高級車”
プリウスというクルマがあまりにも偉大すぎるので、トヨタブランドとして第二弾となるハイブリッド専用車をどのような位置づけでデビューさせるかということは非常に難しかったのではないかと思う。そして、その難題を解くひとつのキーワードが、かつてプログレで取り組んだ“小さな高級車”というものだった。しかし、プログレがデビューしたのは1998年と10年以上も前のこと、同じキーワードで開発に取り組むにしても、クルマに盛り込むべき内容はまったく異なっていたと言っていいのだろう。
さて、新時代の小さな高級車であるSAIは、先にデビューしたレクサスHS250hとプラットフォームを共有する。2.4Lエンジンを搭載するFFのハイブリッドカーということで、北米で売られているカムリ ハイブリッドと共通性があるのではと思われがちだが、そうではない。カムリよりはひとまわり小さい。ホイールベースは2700mmでプリウスと共通、全長×全幅×全高は4605×1770×1495mmで、プリウスより145mm長く、25mm幅広く、5mm背が高いというレベルだ。
スタイリングはプリウスのアイデンティティとなっている“トライアングルシルエット”を4ドアセダンとして表現したもので、ひと目でトヨタのハイブリッドカーと思わせる。そして、このボディのCd値は0.27、さらにアンダーカバーを施してボディ下面をフラットにするなどで、総合的な空力性能に優れているのが特徴だ。
“SAI”というネーミングは“才”と“彩”が由来
試乗は上級グレードの“G”から行った。ドライバーズシートに着くと独特なデザインのインパネまわりが目を引く。各種スイッチ類やエアコン吹き出し口の配置などは基本的にレクサスHS250hと同じなのだが、SAIは独特の高級感を出すことに成功している。トヨタブランドとしては初採用となるリモートスイッチから、ナビのモニターへとつながるセンタークラスターに必要でないときはスイッチ類を隠すフタを設けて、すっきりさせたことが視覚的には大きい。
ハンドル右側のパワースイッチを押し、次は左側のエレクトロシフトマチックをDレンジに入れる。このあたりの手順はもちろんプリウスと同じだ。発進加速はスムーズかつ強力だ。プリウスより車重は240kg重いが、エンジン出力は約1.5倍、モーター出力は約1.7倍もあるので、重量のハンデを補って余りあるのだ。
そのまま調子に乗って、迫ってくるコーナーへ入ってみても、まったく問題はない。剛性感のあるボディとしっかりした足まわり、そして、215/45R18サイズのタイヤでがっちりと路面を捉えて、しっかりとコーナーをクリアする。
しばらくカントリーロードを走ったが、全般にスポーツ度は高く“小さな高級車”というには荒れた路面では少々突き上げがきついように思われた。
しかし次に乗った“S”グレードではそのあたりの印象がずいぶん違った。このグレードは205/60R16サイズのタイヤを装着しているからだろう。乗り心地とスポーツ度のバランスがうまくとれている。後で開発エンジニアに確認したが、18インチと16インチではフロントのアブソーバの減衰力とリアスタビライザーのセッティングが異なるそうだ。
もしSAIを購入するならば、“S”を基本に考えた方がいいと思う。“G”はかなりスポーティなので、もし選ぶならばその度合いを自分で確認してからの方がいいだろう。進んでこのグレードを選ぶならば、満足度は高いはずだ。また、この2つのグレードはタイヤサイズとともに、最小回転半径が異なる。“S”は5.2mで“G”は5.6mになる。このあたりも考慮すべきことだろう。
さて、最後になるがこの“SAI”というネーミングは“才”と“彩”がその由来だそうだ。ハイブリッド専用モデルとして、プリウスと同様の存在感を示すにはユニークでよい名前だと思う。初期受注も好調だそうだ。“小さな高級車”は今後、どれだけ市場に受け入れられるのか。しばらく注目していきたい。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之/写真:原田 淳)
トヨタ SAI G“AS Package” 主要諸元
●全長×全幅×全高:4605×1770×1495mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:1590kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:2362cc
●エンジン最高出力:110kW(150ps)/6000rpm
●エンジン最大トルク:187Nm(19.1kgm)/4400rpm
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:105kW(143ps)
●モーター最大トルク:270Nm(27.5kgm)
●トランスミッション:電気式無段変速
●駆動方式:FF
●10・15モード燃費:23.0km/L
●車両価格:426万円(2009年当時)