迫力満点のカスタム仕様を「お借りして」、豊田社長が登場
トヨタ・モーター・タイランドの60周年式典において、トヨタ自動車の豊田章男社長は壇上にド派手なカスタマイズ(一般ユーザーの愛車を拝借したものらしい)を施したハイラックスREVO(現地名)で登場して、会場を沸かせた(タイトル画像)。
ちょっと小粋なそのパフォーマンスは、「クルマが大好き!」と常日頃から公言する豊田社長の、日本とはまた違った形でクルマを楽しんでいるタイの自動車好きに対するエールに他ならない。
一方でそのメッセージの中で、「今後あるべきクルマの未来」についてもスピーチを展開。タイを始めとする新しいIMV 0コンセプト(新興国市場をターゲットとする世界戦略車)とともに、ハイラックスREVOをベースとするBEVコンセプトをお披露目した。
スピーチの中で豊田社長は今後あるべきクルマの未来について「一つは、移動の自由や経済成長をサポートするクルマ。もう一つは、カーボンニュートラルとより良い地球環境の実現に貢献するクルマ」と説明している。
日本ではレジャービークル的な印象が強いハイラックスだが、新興国においてハイラックスREVOのようなピックアップトラックは、日々の糧に関わる「道具」として使われるシーンがほとんど。タイでお披露目されたハイラックスREVO BEVコンセプトはいわば、トヨタが考える商用車の未来像を具現化した一つの「提案」なのだと思う。
タイは、トヨタがアセアン地域における新しい取組を始めるときにはいつも、スタートポイントとなっていたという。IMVプロジェクトしかり、ハイブリッドの生産しかり、BEVの投入も域内ではタイが初めてだった。
2017年、13年ぶりに日本に復活したハイラックスは、タイ工場で生産されたモデルが逆輸入されていることを考えれば、おのずから現地での開発の動向には、注目せざるを得ないのではない。一部報道によれば、BEV版ハイラックスは2023年にも生産がスタートすると伝えられている。それが即、日本に輸入されるとは思わないけれど、あながち遠い未来の話でもないような気がする。
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MIRAIと同じコンポーネンツで水素燃料電池車に変身
実はタイでのBEV発表に10日ほど先駆けて、欧州では水素燃料電池を搭載したトヨタ・ハイラックスの試作車が開発をスタートしていた。具体的にプロジェクトを担うのは、トヨタ・モーター・マニュファクチャリング(UK)である。それは単にTMUK単独で遂行されるものではなく、英国を拠点に高度な技術スキルを誇る多彩な企業とのパートナーシップによって進められることになるという。
目的は、新型トヨタ・MIRAIに搭載された最新のトヨタ燃料電池コンポーネントを使って、ハイラックスを燃料電池車に変える、というもの。そこからはさらに次世代の水素ドライブトレーンシステムを開発するための、独自の専門知識や見識、生産技術の構築などまでがスキームとして考えられているようだ。
英国での燃料電池車開発プロジェクトのベース車両が「なんでハイラックスなの?」と、素朴な疑問を抱かれるかもしれない。だが、英国はピックアップトラックの主要な市場の一つ。ここでもタイと同様に、商用車市場に向けてのゼロエミッションラインナップとして、重要な意味と意義がある。
そういえばタイでの式典と同じタイミングで、トヨタはタイにおけるカーボンニュートラルの取組みについての「協業」検討を発表している。お相手は小売、流通、工業や農畜産業など幅広い業態を手掛けるCharoen Pokphand Groupで、具体的には家畜の糞尿から発生するバイオガスを活用した水素の製造などを実施する予定だ。
将来的には、英国で完成された次世代水素燃料電池ユニットを搭載するハイラックスが、タイでREVOとして販売されることは、想像に難くない。当然のごとく、タイで生産されたBEV版がハイラックスとして英国に登場する可能性も高いだろう。
豊田社長がかねてから力説しているとおり、ゼロエミッション車のマルチソリューション化を展開するトヨタの勢いには、目をみはるものがある。一方で現地の企業と協力し、時にはローカライズすらも強みに変えようとするその視野の広さにも、驚かされる。
怒涛のようにグローバルスケールで進むトヨタ次世代モビリティたちの動向からはもちろん、しばらく目が離せそうにない。とは言え本音で楽しみにしているのは、水素燃料電池車にするかBEVにするか、でハイラックス選びをとことん悩んでいる自分自身の小さな、でもとっても大切な「近未来」だったりする。