2010年2月、2代目アウディTTのRSモデル「TT RS」が日本に上陸した。Motor Magazine誌はさっそく試乗テストを行っている。ここではその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年4月号より)

新開発の5気筒エンジンなど、RSの名に相応しい凝ったメカニズム

アウディTTにRSモデルが登場した。その名は、モータースポーツをも想定したホットなモデルであることを示している。

カーデザインのマイルストーンとなったTTクーペが、2代目へとフルチェンジしたのは2006年。初代は本格スポーツというより、アウディというブランドの方向性を模索する中でゴルフ/A3のプラットフォームを元に創作したスペシャリティクーペの意味合いが強かったが、これが予想を超える成功を収め、後期にはクワトロ社が手掛けたクワトロスポーツまで登場した。

思えば、TTの走りの目覚めはこの頃から始まっていたのだろう。2世代目も横置きエンジンのFFベースという点は変わらなかったものの、ボディはスチールとアルミのハイブリッド構造となり大幅な軽量化を実現。ここからTTは独自の進化の道を歩み始めることになった。そして2008年に2.0TFSIから272psを絞り出したTTSが登場。さらに2009年のジュネーブショーでTT RSを発表。今回それが日本に上陸したわけだ。

開発を担当したのはもちろんクワトロ社。メルセデス・ベンツのAMG、BMWのM社と同様に、クワトロ社はアウディのカスタマイズパーツの開発と、最高性能モデルRSのプロデュース&生産を担当することで知られている。TT RSでもハイブリッドASFをはじめ、新開発の5気筒2.5TFSIエンジンを搭載するなど、その内容はRSの名に相応しい凝ったものになっている。ちなみに現時点でRSを名乗るのはRS6/RS6アバントとこのTT RSだけだ。

最大の関心事は、やはり5気筒TFSIエンジンだろう。奇数気筒エンジンはアウディのオハコ。4気筒並みのコンパクトさと6気筒に迫るパフォーマンスを叶えるということで、80年代はモータースポーツから市販モデルまで幅広く採用されていた。

今回のCEP型と呼ばれる5気筒エンジンは、もちろん当時のエンジンとは別物。ボア×ストロークは2.0TFSIと同じだからモジュラー化を巧く活用しているのだろうが、340ps、450Nmというハイスペックを引き出すために相当手が加えられているのは確かだ。ブロック自体は北米市場向けのVWジェッタのものとも考えられる。まずはそのフィーリングからお伝えしよう。

画像: 軽量コンパクトな4気筒の利点と滑らかでパワフルな6気筒の良さを併せ持つ伝統の5気筒ターボエンジンを横置き搭載する。

軽量コンパクトな4気筒の利点と滑らかでパワフルな6気筒の良さを併せ持つ伝統の5気筒ターボエンジンを横置き搭載する。

回すほどに盛り上がるパワー、RSのオーラがほとばしる

ちょっと長めのクランキングの後に目覚める5気筒は、やはり独特のビートだ。6気筒ほどサラサラとはしてないが、4気筒とも違う面白い感触である。しかしアクセルを踏み込むと粒立ちが消えてスムーズさが際立つ。音質も2つのエンジンが同時に回っているような個性的なハミングだ。

TT RSは6速MTのみ。ストロークはやや大きいが、ゲート感のしっかりある独特のシフト感が小気味いい。そのレバー後方コンソール上のSボタンを押すと、排気経路が切り替わって抜けの良い図太い音質となり、アクセルペダルの制御も変わってレスポンスがシャープになる。オプションの可変ダンパー、アウディマグネティックライドも備わっていたが、同時にこれもスポーツモードに切り替わる。ちなみに、マグネティックライドをオプションとしたのは、RSモデルという性格上、ピュアな走りを求めるユーザーを想定した結果だという。

フットワークは想像していたよりジェントル。もちろん相応に締まってはいるが、スポーツモードでも不快な突き上げは少ない。スポーツモデルらしく高い減衰力を感じさせる爽快な硬さだ。このホイールベースと車重で重厚感も出せているのは素晴らしい。

ハンドリングはまさにオンザレール感覚。4輪に駆動力を分散するクワトロシステムの恩恵だろうが、ステアリングを切り込んだ分だけ正確にノーズが入っていくし、脱出時のトラクションのかかり方も強力。その分コーナリングのペースがどんどん上がっていくのだが、限界が近づくとフロントの応答性が徐々に落ちてくる。これがコーションサインだ。また、フロントに対向4ピストン式キャリパーを備えるブレーキの効き味も良かった。

エンジンは非常にトルクフル。4速30km/hで、1000rpmあたりからアクセルペダルを踏んでも、苦もなく速度を乗せていくフレキシビリティを持っている。6速MTとは言え、けっこうズボラな走りもできてしまうのだが、やはりこのエンジンは回してナンボ。5気筒独特のビートはなかなか小気味良いし、回すほどにRSモデルらしいオーラが発散される。

TTそのものがお洒落な出で立ちのクルマなので、内外装にTTSとの差を感じにくいが、それでも大開口のエアインテークや固定式リアスポイラー、ヒーター付きバケットシート(オプション)などやはり特別。コンパクトなボディに精緻なメカニズムを詰め込んだスペシャルなモデルなのである。(文:石川芳雄/写真:永元秀和)

画像: 専用の固定リアスポイラー、大径オーバル2本出しマフラーがTTRSの証。取材車はオプションのアウディマグネティックライドを装備。

専用の固定リアスポイラー、大径オーバル2本出しマフラーがTTRSの証。取材車はオプションのアウディマグネティックライドを装備。

アウディTT RS クーペ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4200×1840×1380mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1500kg
●エンジン:直5DOHCターボ
●排気量:2480cc
●最高出力:250kW(340ps)/5400〜6500rpm
●最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1600〜5300rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●車両価格:835万円(2010年当時)

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