2009年秋、かねてから噂されていた「ベビーロールス」が発表された。「ゴースト」と名付けられたこのモデルは、エンジンもシャシもファントムとは異なる、まったくのニューモデルだった。ここではアメリカ西海岸で行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年4月号より)

ファントムがタキシードで、ゴーストはツィードのジャケット

昨年(2009年)のジュネーブ国際モーターショー、そして秋には日本でも公開されたロールスロイス ゴーストは、これまで噂されてきたようなベビーロールスではなかった。

全長5399×全幅1948×全高1550mmとファントムより441mm短いだけで、Sクラスや7シリーズ、あるいはA8などのドイツ製ラグジュアリーサルーンなどより300mm以上も長い。

それでもロールスロイスの中ではもっとも小さく、チーフデザイナーのイアン・キャメロンによれば「ファントムがタキシードで、ゴーストはツィードのジャケット」という位置づけになる。つまりファントムのオーナーがカジュアル、つまり「気軽にお出かけ」するにも適したモデルということだ。

そのために、デザインは押し出しの強いファントムに比べればずっと控えめである。まずパルテノン神殿を模したグリルの面積は小さく、縦のグリルバーはアウターフレームの内側に引き込まれている。ルーフはクーペ状に後方へなだらかに落とし込まれ、スポーティでパーソナルな雰囲気を醸し出している。

エクステリアデザインが大きく変わってもロールスロイスらしい佇まいを感じるのは、「ルーフトップまでの高さがタイヤ径の2倍、ボンネットの絞り込みがシャンペンボトルラインを保っている」などのロールスロイス デザイン要件が守られているからであると、デザイナーのひとりアラン・シェパードは言う。

もちろんファントムと同じ観音開きのドアも、このカジュアルモデルがロールスロイス ファミリーの一員であることをはっきりと主張する。

搭載エンジンも噂されたV8ではなく直噴12気筒で、排気量は6.6Lだ。そこへ2基のターボを装着した結果、最高出力は570ps/5250rpm、最大トルクは780Nm/1500rpmとファミリー内ではもっともパワフルなエンジンとなる。また組み合わされるトランスミッションはBMW 7シリーズにも採用されているZF製8速ATで、100km/hまでの加速所要時間は4.9秒とポルシェ 911カレラとほぼ同等である。また最高速度はリミッターにより250km/hに制限されているが、ロールスロイスファミリーではもっとも高性能である。

それではなぜゴーストがファントムと比べて1800万円以上も安い2900万円という価格設定になっているのだろうか?

その答えはゴーストのボディにある。ファントムと同様に南ドイツ、ディンゴルフィングの専用工場で生産され、グッドウッドに送り込まれるホワイトボディは、アルミでなくスチール製なのだ。それでもゴーストの空車重量は2435kgとファントムより100kg以上も軽い。

画像: ゴーストのボディ塗装は完成までに7日間を要する。5段階の塗装加工処理を重ねて、最終層まで塗り終えた後、5時間を費やして手作業で磨き上げられている。

ゴーストのボディ塗装は完成までに7日間を要する。5段階の塗装加工処理を重ねて、最終層まで塗り終えた後、5時間を費やして手作業で磨き上げられている。

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