2009年秋、かねてから噂されていた「ベビーロールス」が発表された。「ゴースト」と名付けられたこのモデルは、エンジンもシャシもファントムとは異なる、まったくのニューモデルだった。ここではアメリカ西海岸で行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年4月号より)

ドライバーオリエンテッドなラグジュアリーサルーン

ドイツの寒空とは打って変わって、抜けるように晴れ渡った青い空の下に現れた「ゴースト」。お化けなんて名前は場違いだが、試乗会が開催されたアメリカ西海岸ニューポートビーチ近くの高級リゾートのエントランスにはぴったりのエクスクルーシブな風貌を持っている。

インテリアはファントムと違ってドライバーオリエンテッド、つまり積極的な運転を促すような要素が多い。例えばステアリングホイールの径はやや小振りで、同時にリムは太い。

また当然のことながらナビゲーション、空調ダイヤルなどはすべてドライバーの手の届く範囲内にレイアウトされている。面白いのは空調の温度設定ダイヤルで、たとえばドイツ製ならば温度が数字で表示されているが、ゴーストでは赤と青の表示があるだけ。技術説明を担当するドイツ人エンジニアのマーク・ミュールハウゼンも「実は赤と青の中間が22度なんですが、英国人の同僚は数字はいらないと主張するのです」と苦笑いをする。

ちなみにインテリアは30名の熟練工が2000以上の工程を20日間かけて仕上げており、文字どおり「走る工芸品」に仕上がっている。

1906年に登場したロールスロイス40/50hpに付けられたシルバーゴーストという名前は、まさに「幽霊のように音もなく走り去る」というところから付いたものだったが、現代のゴーストも決して引けを取らない静粛性をアピールしながら発進。8速ATもほとんどショックを感じさせずに適切なギアを選んでゆく。

乗り心地はランフラットタイヤを装備しているにもかかわらず快適そのもの。荒れた路面を通過してもパッセンジャーには振動もロードノイズも遠い世界での出来事のようにほとんど伝わってこない。 

西海岸のハイウェイにおける法定最高速度は70マイル/hだが、ゴーストにとっては性能の半分以下の仕事量で、クルーズコントロールをセットしない限り自制心を失いそうになる。

そこでロールスロイスは我々のために巨大な飛行場跡に特設のテストコースを用意してくれた。ここではスラロームや120マイル/hでの高速レーンチェンジなどを行ったのだが、ゴーストは巨体とは思えない安定した挙動を示してくれた。

ロールスロイスはこのゴーストの世界販売台数を年間2000台と計画しているが、これはむしろ控えめな数字だと思う。確かにゴーストの価格はメルセデス・ベンツ Sクラスの2倍を楽に超える。しかし、このクルマのハンドルを握ると、ドイツ製ラグジュアリーサルーンが無機質に見えてしまうのである。この不思議な魅力を感じ、賛同する人の数は少なくはないはずである。(文:木村好宏)

画像: ロールスロイスの他のどのモデルよりもドライバー志向の強いクルマとして、ダッシュボードは直感的に使いやすいようにレイアウトされているという。

ロールスロイスの他のどのモデルよりもドライバー志向の強いクルマとして、ダッシュボードは直感的に使いやすいようにレイアウトされているという。

ロールスロイス ゴースト 主要諸元

●全長×全幅×全高:5399×1948×1550mm
●ホイールベース:3295mm
●車両重量:2435kg
●エンジン:V12 DOHCツインターボ
●排気量:6592cc
●最高出力:420kW(570ps)/5250rpm
●最大トルク:780Nm/1500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
※EU準拠

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