トヨタ自動車は2023年2月13日(月)、佐藤恒治・次期社長を中心とする執行役員体制を発表、BEVをトリガーとする次世代モビリティ開拓への挑戦など新たな構想について説明した。新体制が見据えるのはもちろん「もっといいクルマづくりのフロントランナー」たること。そのカギはどうやら「レクサス」や「GR」などの、ブランドポートフォリオの再構築にあるようだ。

世界の「人」の生活を支え、ニーズを捉えたクルマ作りの原点

最後の「多様化」は、グローバルにフルラインナップ展開している企業だからこそ、の視点に立つ。2022年12月、タイにおける事業展開60周年記念式典では豊田現社長が、地域のニーズやライフスタイルに根差した移動の自由な経済成長をサポートすることの重要性を説いた。それはまさに世界中の「人」に寄り添い、多様なニーズに応えるというなかなかに「ミッション・インポッシブル」なテーマに挑んでいく、強靭な決意の表明だったと思う。

画像: バンコクで開催されたトヨタ・モーター・タイランドの設立60周年式典では、豊田章男社長が登壇。新しいIMV 0コンセプトとともに、ハイラックスRevoのBEVコンセプト(写真右)を発表して度肝を抜いた。地域に根差したフル電動化モデルの道筋は、すでに見え始めている。

バンコクで開催されたトヨタ・モーター・タイランドの設立60周年式典では、豊田章男社長が登壇。新しいIMV 0コンセプトとともに、ハイラックスRevoのBEVコンセプト(写真右)を発表して度肝を抜いた。地域に根差したフル電動化モデルの道筋は、すでに見え始めている。

新体制はある意味、豊田社長から与えられたそんな「宿題」に取り組むことになるわけだが、新任の中嶋裕樹 副社長がひとつの象徴的な存在になっているような気がする。現在はMid-Size Vehicle Companyとともに、新興国を含む商用車開発を担うCVCompanyのプレジデントを兼任、4月1日付でChief Technology Officerに就任する。

筆者の場合に中嶋氏といえば、2005年にトヨタiQのチーフエンジニアを務められていたことが、強く印象に残っている。当時の乗用車としては(あるいは今でも?)極めてユニークな存在だったが、中嶋氏の「とにかく面白いクルマを作りたい」という情熱がひしひしと伝わってくるモデルだった。

その後、中嶋氏は新興国向けの共有プラットフォームを有する世界戦略「IMVプロジェクト」を担当。2017年に13年ぶりの凱旋帰国を果たした8代目トヨタ ハイラックスの開発責任者として、試乗会で再会することができた。

ピックアップトラックとして、タイで生産されるハイラックスが国内市場に復活したのも驚いたけれど、その鍛え抜かれた悪路走破性や想定外の乗り心地の良さ、なにより運転していてとても豊かな気持ちにしてくれる作り込みの入念さに感心したことを覚えている。

どちらかと言えば先進国向けの新カテゴリーと言えるiQから、新興国の生活様式に根差した「はたらくクルマ」であるハイラックスという、そうとう畑違いなクルマ作りには、中嶋氏自身もさすがに当初は戸惑われたとのこと。だが逆にそのギャップの大きさゆえに、クルマ作りに対する意識の変化をもたらすきっかけになったらしい。

当時の公式インタビュー記事を読むと、「ハイラックスは僕の大切な相棒なんだよ」と語るリアルオーナーの言葉に、まずは感動したという。その時、「愛車というように愛のつく工業製品はクルマしかない」という豊田社長の言葉を、思い出したのだとか。新興国市場向けの車両開発の過程を通して、さまざまな環境の中で多種多様な「人生」を支えるクルマ作りの大切さを、改めて学んだのだそうだ。

走りのGRと本物志向のレクサスが、トヨタ車全体を変えていく

ちなみに同じく4月1日付で、執行役員を退任し新たにアジア本部長としてカーボンニュートラルやCASEプロジェクトをリードしながら、アジア地域戦略を推進する役割を与えられた前田昌彦氏も、中嶋氏の後任としてハイラックスのチーフエンジニアを担当していた時期がある。そんなところからも新体制は、ダイバーシティというベクトルに対して非常に積極的であることが窺える。

画像: 2017年に日本市場に復活した8代目ハイラックスはスマッシュヒット。2021年には「GR SPORT」が追加設定されるほど、人気を博した。60周年記念のBEVコンセプトと合わせて考えると、今後のトヨタ・ブランドが目指すひとつの理想形がこのモデルなのかもしれない。

2017年に日本市場に復活した8代目ハイラックスはスマッシュヒット。2021年には「GR SPORT」が追加設定されるほど、人気を博した。60周年記念のBEVコンセプトと合わせて考えると、今後のトヨタ・ブランドが目指すひとつの理想形がこのモデルなのかもしれない。

ことほどさように、こだわりのメンバーが揃った佐藤新体制下で、果たして今後、どんな魅力を持ったクルマたちが誕生することになるのか。佐藤次期社長はチームそのものの多様性をたびたび強調していたが、同時に価値観がしっかり共有されていることにも自信を持っていた。

具体的にはブランドポートフォリオを高めるクルマ作りについて触れ、その軸としてBEVのイメージリーダーとなる「レクサス」とともに「GR」を挙げる。後者が担うのは「モータースポーツを軸にしたもっといいクルマづくりのフロントランナー」という役割だという。

BEVとともに「本物志向」を追求するレクサスとGRのタッグは、それぞれのブランドの価値を高めるだけでなく、トヨタ全体のクルマづくりにもしっかりフィードバックされることになるだろう。とくに、より身近で裾野が広いコンパクトカーの領域に至るまで、徹底したカーボンニュートラルの方策がどのように盛り込んでいかれていくのか、とても興味深いものがある。

その点に関しては、Toyota Compact Car Companyのプレジデントとして小型車開発を統括する新郷和晃氏が中心になって推進されることになる。90年代半ばから初代プリウスなどのいわゆる電動系システム開発に携わってきた新郷氏は「いわゆる環境対応車は、普及してこそ初めて貢献できる。とくに小さなクルマでその理想を実現するのはハードルが高いが、新しいチームなら垣根なしにスピーディに意思決定し、進めていくことができる」と語っている。

新体制は、カーボンニュートラルという達成目標そのものが実は多様性に富んでいることについても、対応を考えているようだ。現任の執行役員でありアジア本部本部長など海外市場でのセールスマネジメントを現場で体験してきた宮崎洋一副社長(Chief Financial Officer/Chief Competitive Officer/事業・販売President)は、販売店がマーケットと一体になって積み上げてきた理念と価値観を共有することが必要だ、と述べている。「地域とグローバルヘッドクオーターが常に意思疎通を密とし、現場での連携を深めていく」ことが、達成への最善の道のりであるという認識だ。

「プレーヤー」ひとりひとりがさまざまな個性と視点、技術を身に着けながら、ひとつのゴールに向けて走り続けるサッカーチームにたとえて「柔軟にフォーメーションを変えていく組織作りに取り組む」と語る佐藤次期社長。いろいろな意味で「若返ったワンチーム」によって、果たしてどんな「町いちばんのクルマ屋さん」が「オープン」するのか・・・いろんな意味でワクワクしてきた。(写真提供:トヨタ自動車)

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