若返った新体制のもと、すべての「革新」に挑む
トヨタ自動車が、2023年4月1日付で豊田章男社長が会長職となり、新たに佐藤恒治執行役員が社長に就く人事を発表したのは2023年1月26日のこと。それから2週間ほどで今度は、佐藤次期社長を中心とする執行役員体制(4月1日付)を発表した。
佐藤次期社長も53歳(1969年10月19日生まれ)と十分に若いのだが、40代の新任執行役員も誕生するなど、年齢構成だけ見てもそうとうにフレッシュな顔ぶれと言えそうだ。
現任から新任を含む執行役員は総勢8名(現在の11名から3名減)。そのうち2023年2月13日(月)に東京本社で開催された体制発表会で登壇したのは、佐藤次期社長と以下の4名の執行役員だった。
●中嶋裕樹 副社長(新任)
Chief Technology Officer/Mid-size Vehicle Company(President)/CV Company(President)
●宮崎洋一 副社長(現任)
Chief Financial Officer/Chief Competitive Officer/事業・販売(President)
●Simon Humphries (新任)
Chief Branding Officer/クルマ開発センター/デザイン領域(統括部長)
●新郷和晃 (新任)
Chief Production Officer/Toyota Compact Car Company(President)
「執行役員」の中に「副社長」がいて、さらに「Chief ●●」とかカンパニー系「President」とか様々な肩書がついているのは、一般的には少しわかりづらいかもしれない。だが、ある意味それこそが、豊田章男現社長のもとで13年に渡って進められてきたトヨタ流の役員体制・組織改革の成果とも言える。
豊田章男社長が就任した2009年ごろのトヨタは、リーマンショックの影響を強く受けていた。さらにリコール問題や東日本大震災といった予期せぬ「激動の時代」に巻き込まれ、さまざまな改革に取り組むことを余儀なくされた。
その動きは2011年の取締役会のスリム化に始まり、役員の役割を変更。2015年には副社長が「機能の執行責任者から中長期視点での経営の意思決定と執行監督」としての役割を与えられ、翌年にスタートした「カンパニー制」導入に伴って、モノづくりのプロセスまでそれまでの機能軸から製品軸へと移行している。
そして2020年4月、副社長と執行役員が「執行役員」に一本化されたことで、役割がより明確化されることになる。それぞれに適材適所を徹底し、「チーフオフィサー」「カンパニープレジデント」「地域CEO」と言った担当の割り当てを実施した(「副社長」は2022年4月に執行役員の役割を整理し、トップとともに経営視点に専念する立場として復活している)。
さらに同年7月には現場で即断即決即実行を進める役割を「幹部職」に一本化するとともに、「執行役員」にはチーフオフィサーとして会社全体を俯瞰し経営を担う役割を与えることになった。
たとえば佐藤次期社長の場合、現職はChief Branding Officer/Lexus International Co.(President)/GAZOO Racing Company(President)。まさにこの「ブランディング」こそが、新体制が目指すトヨタ自動車の新時代をけん引する要素となっている。そして佐藤次期社長が統括してきた「レクサス」と「GR」が、その中核となっていくという。
「電動化」「知能化」「多様化」の3本柱で体制を再構築
佐藤次期社長は記者会見の檀上で、4月から始まる新体制のテーマを「継承と進化」と、定義した。目指すのは「町いちばんのクルマ屋」であり、「モビリティ・カンパニーへのフルモデルチェンジ」。その体制構築に当たって中核となるのが「電動化」「知能化」「多様化」の3本柱だ。
まず「電動化」については、エネルギーセキュリティを視野に入れながらBEVの開発に注力する展開を明らかにしている。従来からトヨタが「マルチパスウェイ」と呼ぶ、次世代自動車技術に関する多様な選択肢を提供してく姿勢は変わらない。だが会見において佐藤次期社長はさらに踏み込んだ形で、「自分たちらしいBEVを、従来とは異なるアプローチで作り上げる」ことを明言した。
具体的には電池、プラットフォームなどを最適化したモデルを、2026年を目標にレクサスブランドから投入するという。内燃機関を前提としたクルマ作りから離れて、エネルギーフローや空力的特性に至るまで研究・開発を進め、トータルでの「最適解」を求めたクルマ作りが進められる。それとともに、販売からサービスに至るまで事業の在り方を、まずはレクサスブランドを中心に変革していくことになる。
「知能化」で注目したいのは「クルマ屋にしかできない知能化がある」という佐藤次期社長のコメントだ。そこでは、タイヤなどから伝わる各種インフォメーションをもとにクルマとの対話を深化させ、さまざまな価値を高めていくことを目指す。キーテクノロジーとなるのは、高度な自動運転機能を含めた先進安全運転支援システムの制御を行うための、独自の車載OS「アリーン(Arene)」だという。
アリーンについては、新たに執行役員に就任予定のサイモン・ハンフリー氏(新型プリウスのワールドプレミアでプレゼンを行った、デザイン領域統括部長。3月1日付で佐藤次期社長の後を継ぐ形でChiefBranding Officerとなる)が、補足。「ハードウェアとソフトウエアがシンクロしていくペースを速め、高度化させることで、活動の自由を広げ、さらなる喜びを提供することができる」と、語った。
一方で佐藤次期社長は、高度な技術による知能化という制御を盛り込む前段階として、基本的なクルマとしての素養=物理的特性については、徹底的に作り込むことを確約している。「基礎技術は深め、高めていくべき。だからこそ味わい深いクルマができる」と、根っからのクルマ好きであり、生粋のエンジニアらしいこだわりもしっかり感じさせていた。