走行安全、それは「走りを極めれば安全になる」という考え
「クルマの性能」とひとことで言ってもその種類・ジャンルはさまざまで、数値化されるパワートレーンや車両重量、乗員が感覚で感じられる静粛性や乗り心地など、それこそ数え切れないほどある。こうした性能の中でも近年多くの自動車メーカーがその性能向上に注力しているのが、SDGsのターゲットにも盛り込まれている交通事故による死傷者を減らすための安全性能だ。
先進運転支援システム「アイサイト」で知られるスバルも、同ブランド乗用車による死亡事故を低減させて2030年までにゼロにすることを目標として定めて開発を推進している。
安全性を高めるためのアプローチをスバルは大きく5つに分類している。それぞれ、「0次安全」は事故に遭わないため視界の良い基本設計、「走行安全」は危険を回避するための動的性能、「予防安全」はアイサイトをはじめとする先進運転支援システムによる支援機能、「衝突安全」はもしもの時に乗員や他者を保護する性能、「つながる安全」は自動通報やインフラとの協調、と定義して研究を続けている。
こうした「事故低減に向けた取り組み」の成果を公開する場として、スバルはこれまでテックツアーを2回、「#1 予防安全編」「#2 衝突安全編」を開催、そして今回、第3回目の「#3 走行安全編」が栃木県にあるスバル研究実験センターで開催された。
ここでのプログラムはいくつか用意され、バンクを設けられた高速周回路をWRXで240km/hからのフルブレーキ、砂利敷きの30%上り勾配を電気自動車ソルテラのグリップコントロールで登るなど、さまざまなシーンでの走行安定性を確認。その中でも特に印象的だったのが、新型クロストレックと従来モデルのXVを使用した商品性評価路での試乗だ。
群馬大学医学部との共同研究で生まれた「医学的アプローチ」
走行安全・・・これはつまり「走る・曲がる・止まる」の基本性能を磨いて走りを極めれば、万一の危険を回避できるようになり、安全性も高まるという思想がスバルにはある。もちろん今に始まったことではなく、アクティブセーフティと呼ばれるこうした性能の開発は従来からシンメトリカルAWDやSGP(スバルグローバルプラットフォーム)などの採用によって、あらゆる環境下でのコントロール性能を磨かれてきた。
そしてさらに走行安全性を高めるべく、2022年12月に発売されたコンパクトクロスオーバーSUV クロストレックの開発から導入されたのが「医学的アプローチ」だ。似たような言葉で、目の動きや手による操作を人間の自然な動きの中で行えるようにすることでミスや事故を減らす「人間工学」を知っている人も多いだろう。
これまでも研究されてきたところであるが、人間工学に加えて今回の医学的アプローチは人体の構造・骨格などを群馬大学医学部とともに共同研究することで、「気持ち良く走る」という視点を強化しているのだという。
そもそも人が感じる乗り心地は、振動の大きさや加速度、音の大きさだけで測ることができず、「数値上は同じだけどフィーリングは違う」ということが多くあったのだという。
この医学的アプローチを取り入れることで走行中の不快感や疲れなどの原因を特定、改良されたのがクロストレックということになる。具体的には、クルマがロールした時に発生する頭の揺れをより小さくするため、仙骨(骨盤と背骨をつないでいる骨)を安定させるシート構造を採用したり、シート固定方法を改良して剛性を高めるなどが行われている。
もうひとつの医学的アプローチが「音」にまつわるもの。平衡感覚や加速度を感知する器官は耳(内耳)にあるため、音と乗り心地がリンクしていることは知られている。クロストレックでは、乗り心地に影響する「ルーフ共振現象」を特定して音の減衰を早くする改良を施されているのである。