ほんわか癒し系からキリリと大人顔に変身したカングー
コトコトとお湯を沸かし、じっくりと一滴ずつハンドドリップで淹れるコーヒーには、コスパだタイパだと効率重視の世の中で、自分らしさや心の豊かさ、真心やこだわりを大切に、ていねいに生きる幸せが注がれていると感じる。
おもてなし装備が満載されたミニバン王国の日本で、あえてフランス生まれのミニバン(MPV)を選ぶということ。これもまた、コスパ・タイパだけではない「なにか」を大切にしたい気持ちの表れ、ではないかと感じている。
2002年に日本導入された初代ルノーカングーは、見るからにハッピーなフロントマスクとタマゴ色のボディという、国産ミニバンにはなかったほっこり癒し系で、じわりじわりと存在感を強めていった、フレンチおしゃれミニバンの先駆者だ。
09年に2代目、23年に3代目へと進化。19年にシトロエン ベルランゴ、プジョーリフターというライバルが加わり、3列シートを備えたベルランゴ ロング、リフター ロングも登場して、にわかに選択肢が増えたカテゴリーである。すべてのモデルに共通するのは、本国では商用車として長い歴史を持ち、今も現役だということ。
カングーは新型の開発にあたり、地球150周分もの過酷な走行テストに耐え、数百万回に及ぶドア開閉テストもこなしたと聞く。ベルランゴ、リフターとて、推して知るべし。今日は、商用と乗用の二刀流で活躍するフレンチMPV3モデルが、日本で開催した交流試合。そんなふうに見えなくもないロングドライブへと出かけてみた。
フルモデルチェンジで大変身を遂げたカングーは、ほんわか癒し系からキリリとした大人顔になったのが印象的。Aピラーの傾斜が深まり、グラスエリアが薄くなってスタイルアップしつつ、流線型ボディで空力に貢献し、Rのついたリアビューでどっしりとした安定感も手に入れた。でもフロントマスクからフェンダーに繋がる盛り上がったフォルムや、観音開きのバックドアは受け継がれ、遠目にもカングーだと判別は可能だ。
両側スライドドアの開閉が格段に滑らかになった
インパネはガラリと変わった。1日に何度も操作する郵便配達員の意見を聞いた、横長のバータイプのパーキングブレーキはついに姿を消し、電動パーキングブレーキが置かれた。ドリンクホルダーは使いやすくなり、収納スペースは大容量のダッシュボードトレイなど、かなり充実。
お馴染みのオーバーヘッドコンソールも健在で、これなら子供のオモチャや着替えなどたっぷり持ち込めるはず。後席に備わる折り畳みテーブルも、格納操作がスムーズになった。
これが気のせいでないと自信を持って言えるのは、両側スライドドアの開閉が格段に滑らかになったことと、ハンズフリーカードキーの賢さである。また、全長が210mm拡大した恩恵がもっとも感じられるのが、後席とラゲッジルーム。3座独立の座面はゆとりがあり、足もとのフロアはフラットで、スペースも膝まわりに拳4個分の広さを確保している。
荷室容量は775Lを実現する。また後席を60対40分割で畳むと2800Lにもなるから、コストコでの爆買いにぜひ連れ出したい。バックドアはまず右ドア、次に左ドアの順に90度開き、ロックを外すと180度まで開くというのも、カングーならでは。これがフリーマーケットや移動販売に打ってつけなのだ。
パワートレーンは1.3Lのガソリンターボ、または1.5Lのディーゼルターボに湿式7速となったDCT(EDC)の組み合わせ。ガソリンモデルの試乗では国産ミニバン並みの静かさや上質感、欧州車らしい高速道路での抜群の安定感や乗り心地の良さの両立に圧倒されたのだが、今回はディーゼルモデル。
比べると少しだけエンジン音は賑やかで、出足がやや穏やかに感じ、先代に近い親しみやすさが残っている。でもアクセルペダルのつきがよく、滑らかで瞬時の加速も思いのまま。中速域から一気にグイグイと盛り上がるような加速フィールと、コーナリングである程度まで沈み込み、そこからガシッと抑えを効かせて超えていく軽やかさが魅力的だ。