ベストセラーSUVのGLCがフルモデルチェンジ
世界の自動車マーケットでのSUV人気は、近年になっても衰えを示すどころかむしろ勢いを強める一方。当初は、複数台所有の富裕層をターゲットに据えたと思える大型で高額なモデルがメインだった車種展開も、昨今ではグンとコンパクトで比較的安価なモデルも目立つようになり、まさに「百花繚乱」となっている印象だ。
かつてはSUV=4WDが当然と思えた駆動系も、多降雪地域に多くの人が暮らす世界的には例外とも思える日本発のモデルを別にすれば、今や2WDも珍しくない。SUVは一部特定のユーザーを見据えたモデルから、もはやこれまでのセダンやクーペといったボディ形態を遥かに凌ぐ、自動車カテゴリーのメインストリームに成長を遂げている。
それも納得で、既存ボディに対するアドバンテージは数々認められ、逆にウイークポイントと指摘すべき点はこれといって見当たらない。地上高や背の高さがもたらす安定性の欠如や空気抵抗の増大への不安は、スタビリティコントロールシステムの装備やボディの平滑化といった技術の進歩でそのハンデを跳ね返している。
こうなると、やや高めのシート位置による優れた乗降性やボディ表面積の大きさによるデザイン自由度の高さ、そして電動化が進む現代にあっては駆動用バッテリーの搭載スペースを確保しやすいことなど、SUVならではのメリットがいよいよ際立ってくる。冷静に考察すればするほどに、SUVが普遍的なボディ形態になりつつあるのも「さもありなん」と思えるのである。
そうした中で先見の明があったというべきか、事実上の前任モデルであるGLKも含めればすでに3代のモデルを送り出したメルセデス・ベンツGLC。2015年にローンチされた初代と22年に発表され翌23年からは日本にも導入されている2代目GLCのルックスはお互い雰囲気がとても近く、このブランドが初代の仕上がりに大きな自信を抱いていることが伝わってくる。
実際、15年デビューの初代GLCは「20年と21年にメルセデス・ベンツ車の中でのベストセラーSUVの座を記録し、前任モデルのGLKを含めると世界累計の販売台数は260万台」と報告される。そんな好評モデルのイメージを一新させる必要など何もないのは当然のことだろう。
エンジン音も含め、あらゆるノイズを巧みに抑制
そんなGLCでも、新型の完全な刷新ぶりを感じられるのはクルマに乗り込んだ時。ダッシュボード上からはメータークラスターや多くの物理スイッチが姿を消し、バイザーレスのディスプレイ式メーターパネルやセンターコンソールから続くタッチパネル式の巨大な縦型センターディスプレイが新鮮さをアピール。
新しいデザインが必ずしも操作性に優れるとは言えない場合があるのも昨今のモデルでの「あるある」。それでもメルセデス各車の場合、表示アイコンが大きめでこの新型GLCでも何とか初見で基本機能を使いこなせることは幸いではある。
日本仕様のGLCに搭載されるパワートレーンは現在のところ、マイルドハイブリッドシステム付きの2L 4気筒ディーゼルターボエンジン+9速ATのみで、「4マティック」の名が加えられるように4WD仕様。
今回のテスト車はそこに専用デザインによる内外装やベース車両比で1インチ増しの19インチタイヤ、スポーツシートなどから構成される「AMGラインパッケージ」やエアサスペンション、リアアクスルステアリングを含む「ドライバーズパッケージ」、さらに本革シートやヘッドアップディスプレイなどを採用の「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」といったフルオプション状態のモデルだったが、その乗り味は多くの人がこのブランドの作品に期待するであろう上質さが印象に残るものだった。
従来型GLCの記憶を抱きながらスタートすると、まず明確な違いは静粛性の高さ。遠くで囁くように耳に届くエンジン音は事前にディーゼルと知って走り始めても、さらに「本当?」と確認をしたくなる印象。加えれば、ロードノイズも事実上それを認識できないほどに小さく、静かさが一層際立つことに。9速ATの威力で、100km/hクルージング時のエンジン回転数も1400rpmほどに過ぎないのである。
同時に、マイルドハイブリッドシステムの採用で気になるノイズや振動とは無縁のままアイドリングストップ状態から再始動の後、必要にして十二分な力強さと速さを提供してくれる動力性能にも大いに好感を抱くことになった。19インチのタイヤを履きながら路面オウトツを拾った際の刺激を巧みにいなすフットワークのテイストにも「良いもの感」が溢れて感じられる。
このように、総じてトラディショナルなメルセデスベンツの旨味を存分に味わわせてくれたのが、新世代に生まれ変わったGLCの乗り味であったのだ。