レースの地へ向けてひた走り、跳ね馬の健闘を思い願う
ル・マン24時間レースのスタート3日前、早朝。私はマラネッロ本社工場の旧正門前にいた。門を入ると今では残り少なくなったエンツォ時代の建物に囲われたスペースに、最新のマラネッロ製ロードカーが並んでいる。プロサングエ、296シリーズ、SF90シリーズ、ローマ、ポルトフィーノM。
世界から集まったメディアやジャーナリストがこれらに分乗し、ル・マンへと向かう。名付けて「フェラーリ ロード トゥ ル・マン」、全行程1200km以上、1泊2日のドライブツアーだ。
ラダニーバを5台(うち4台は部品取り!)も所有するカナダ人ジャーナリスト、エル氏と一緒に赤メタリックの296GTBに乗り込み、いざル・マンへ。
モデナでアウトストラーダに入り、トリノ方面へ向かう。昼頃には400km離れたイタリア最西端のコムーネ(自治体)、バルドネッキアに到着した。ランチの後、フレジュストンネルを抜けるとフランス側の街モダーヌだ。
オートルートをさらに西へ。296GTBは優れたスポーツカーだが、快適なグラントゥーリズモでもある。マネッティーノ(ドライブモード)をWETにしておけば、このショートホイールベースミッドシップスポーツカーが安定感あふれるGTへと変身する。
アウトストラーダ、オートルートどちらもスピードカメラが増えたけれど、それでも追い越し車線の車速は制限速度よりはるかに高く、またとても空いている。エルは自身の最高速度記録を塗り替えたらしい。そんな隣でも居眠りできるのだから優秀だ。
ミシュランの本拠地クレルモンフェランで一泊。翌午前中にR&Dセンターでタイヤ開発の最前線を学んだ。フェラーリ製ロードカーは458イタリア以来、ビバンダムだ。午後、最後の400km、ル・マンを目指す。せめて予選くらいは勝ってくれないと記事にできないぞ、などと思いつつ。
杞憂であった。(文:西川 淳/写真:フェラーリS.p.A.)