ブランドには、その象徴となるべき存在が必ずある。ランボルギーニにとってのそれは、初代カウンタックだろう。時の流れとは冷酷なもので、栄枯盛衰は言わば自然の成り行き。厳しい時期を乗り越えるためには、できることを黙々と続けるしかなかった。そして、その熱意と理解により、今や偉大なるアイコンへと昇華している。(Motor Magazine 2023年8月号より)

未来性が強調された造形乗り心地も操縦感も上等

60周年を迎えた今、改めて「真の原点」というべきカウンタックの初代モデル、LP400に乗ってみよう。取材車両は、スーパーカーブームの頃から現代に至るまで日本でもっとも有名な個体で、現在は東京都で鈑金塗装業を営む関口英俊さんがオーナーだ。

画像: 上方に跳ね上げる方式のシザードアはカウンタックの大きなアイデンティティとなった。この姿に憧れた少年たちは多い。

上方に跳ね上げる方式のシザードアはカウンタックの大きなアイデンティティとなった。この姿に憧れた少年たちは多い。

様々なイベントで見てきた個体だが、触れるのは久しぶり。実は以前、私もLP400を所有した時期があり、オリジナル状態へのレストレーションを関口さんにお願いしたことがあった。その際、このオレンジ号をベースに、失われたフェンダーラインやリアアンダーパーツなどを再現した思い出がある。

LP400のこの形をカウンタックのオリジナルデザインだと思う人も多いが、実はそうではない。1971年に発表されたプロトタイプはLP500と呼ばれ、エアスクープやダクトのない美しいデザインであった。その後、73年に作られたプロトタイプでようやくこのLP400と同じ構成要素を持つに至ったが、それでも全体の大きさやドアのデザインなど細部に違いがあった。

とはいえ74年以降の生産型LP400のスタイルは、その後の400S以降の幅広タイヤモデルたちとは一線を画する。タイヤは細く、エアロデバイスはない。それゆえ未来感が一層強調される。なぜならばウイングやオーバーフェンダーは、機能的であるがゆえに現実的なのだ。

シザードアを上方に開け、右足を突っ込んで尻から滑り込み、最後に左足を畳んで入れる。座ってしまえばルーミー、というのはこの時代のイタリアンエキゾチックモデルの慣(ならわ)しだ。小さなメーターとハンドル、区切られたゲートのシフトレバーなど、いちいち懐かしい。

4LのV12DOHCエンジンは難しい儀式など必要なく、一気に目覚めた。背後の轟音はまさにカウンタックだ。同じ400であるはずなのに、ミウラとはまるで違う。やや重々しく回っている。アイドリングスタートで難なく走り始めた。

周りを走るすべてのクルマが大型車に見える、という独特の視界が、走り慣れた道を非日常に変えてしまう。街乗りでこそスーパーカーが楽しいと確信する理由だ。自転車に乗った少年たちが追いかけてくる。そこに、半世紀前の自分を見た気がした。

LP400の乗り心地は、上等だ。それでいて重量バランスが良く、ひらりひらりと軽快なハンドリングを見せる。最高速スペックを言い争った同時代のフェラーリ365BBに比べてもスポーツカーとして、そしてGTとしても断然優秀であった。多少、非力であったことを除けば。同じ時期に両方を所有した私が言うのだから、まず間違いないだろう。(文:西川 淳/写真:赤松 孝)

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