匠が手作業でひとつひとつ仕上げるロータリーを見た
最後に見学したのは、今回の目玉であるロータリーエンジンの製造現場。まずは新しく開発された“8C”と呼ばれるロータリーエンジンが、RX-8に搭載されていた“13B”からどのような進化を遂げたのかを目の当たりにした。
11年ぶりとなるロータリーエンジンの本格的な量産復活に合わせて、生産工程の改良が施された。例えば加工ラインにおける切削加工を従来の50工程から9工程まで削減、ローターのバランス取り工程が自動化されるなど。これら工程の見直しによって、生産精度も改善された。こういった改善はマツダがスカイアクティブで培った技術や知見を応用したというが、この技術的改善は、現在でもアフターケアとして製造を続ける13B用ローターの生産精度向上にも寄与していそうだ。
こうした“削減”や“自動化”といった効率的な改革に反して、ロータリーエンジンの組み立ては人の手作業によって行われる。マツダではロータリーエンジンの組み立てを行う技術を持った職人を「匠」と呼んでいる。その人数は取材時点ではなんと3人。その卓越した技術を持つ匠によって、最後の仕上げが行われるのだ。
その姿を間近で見ることができたのだが、職人と聞いて想像するようなおじいちゃんではなく、比較的若い方だったことにも驚いた。そして現在ではその技術を伝承するために、新たな匠を養成しているとのこと。ロータリーの火が消えることはなさそうだと感じて嬉しい気持ちになった。
ものづくりの思想は固定と変動であるとマツダは言う
こうして初めての自動車工場見学を終えた私は、クルマが実際に製造される現場には人と機械の繋がりがあるのだと知った。つまり、人による知恵と技が機械と融合することによって、より高度な生産が行うことができるということだ。
マツダ本社工場長の宮脇克典氏は、ものづくりの思想とは「何を固定し、何を変動するかを考える」であると語った。すなわち、固定とは生産工程で変えることができない要素で、変動とはお客の要望に合わせて変化させるべき部分。固定要素はなるべく効率的に、変動要素は常にお客に寄り添うことを意識するという考え方に基づいて進化しつづけている。こうしたマツダの人想いなものづくりに対する姿勢にも、私は感動した。
このように実際の現場を見ることで、その会社の思想や大事にしているコトやモノが何かをよく知ることができる。人生初の工場見学とは、それを知ることができた有意義で大変貴重な経験だった。