アクセルペダルを踏み込んだ瞬間の、瞬発力と加速力に圧倒される
アバルト500eが真価を見せるのは、街中を流すぐらいの巡航スピードからグッと加速していきたいとき、コーナーの頂点を抜けて鋭く脱出したいとき。アクセルペダルをキックしたその瞬間、ズバッ! と強力な加速を見せてくれるのだ。そのときの瞬発力、加速力、刹那のときめきは、このクラスのクルマには太刀打ちできるものがないほど。
BEVでいうなら車格が似ていてトルクで勝るプジョーe-208と較べても、ICE版でいうなら誰もが認める超痛快コンパクト、アバルト595/695と較べても、間違いなく上まわっている。20→40km/hと40→60km/hが695よりそれぞれ1秒速いというデータも、60→100km/hが1秒近く速いというエンジニアから聞いた話も、そのまま身体で理解できる。
6000時間=およそ2年半の時間をかけて創造したサウンドジェネレーターによるレコードモンツァエキゾーストの音色が気持ちよく跳ね上がることも手伝って、加速時の心のレブカウンターの上昇っぷりも結構なものだ。有り体に言うなら、胸がすく、背中が軽くゾクッとする、気持ちはスカッと晴れ渡る。要は最高に気持ちいいのである。
コーナーでの振る舞いも実に見事だ。ノーズは素早く滑らかに曲がりたい方向へ正確に向かい、旋回中はずっと安定、出口でのアンダーステアも驚くほど少ない。動きのしなやかさではe-208にかなり近く、コーナーでの安定性と旋回スピードの速さでは595/695を上回ってる。それと強力な立ち上がり加速がタッグを組むのだ。ワインディングロードなどでは695をコーナーごとに引き離していくだけの実力を、きっちりと見せてくれるのである。
これは紛うことなきアバルト。アバルトの哲学に沿ったクルマ以外の何者でもない。クラスを越えた速さがあるし、強烈に楽しいのだ。異端と誹られようと何と言われようと、BEVならではの持ち味を「楽しい」と「気持ちいい」の部分で炸裂させているようなこのクルマが、僕はとっても好きだ。(文:嶋田智之/写真:根本貴正 Motor Magazine編集部)
アバルト500e Turismo 主要諸元
●全長×全幅×全高:3675×1685×1520 mm
●ホイールベース: 2320mm
●車両重量:1360kg
●モーター最高出力:114kW(155ps)/5000rpm
●モーター最大トルク:235Nm/2000rpm
●駆動方式:FWD
●バッテリー種類・総電力量:リチウムイオン・42kWh
●WLTCモード一充電EV走行距離:303km
●タイヤサイズ:205/40R18
●車両価格:6,150,000円