ニーズの多様性に素早く対応できる商品設計力
話題の中心は、新しいREGNO GR-XⅢ(レグノ ジーアール クロススリー)で国内市販乗用車向けに初めて採用された商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」がもたらす、製品性能の進化です。
エンライトン自体は、「EV時代の新たなプレミアム」タイヤというキャッチフレーズで2019年に発表され、OEMを中心にプロダクツ化が進められてきました。
当初ははっきりと、エコロジカルな側面に焦点が当てられていたように思います。けれど2023年12月には、モータースポーツシーンでの技術開発に絡めるカタチでスポットライトが当たりました。
タイヤを構成する部材を3つのモジュールに集約したモノづくり基盤技術である「BCMA(Bridgestone Commonality ModularityArchitecture)」と合わせて、アジャイル(スピード感のある、というニュアンスでしょうか)な開発を加速させるファクターとして、より攻める印象へとスイッチしていきます。
もともとブリヂストンは、独自性をアピールするセンスが抜群です。たとえば1993年に発表された基盤技術「DONUTS」は、タイヤにこだわるドライバーに限らず、幅広いユーザー層に認知されました。タイヤに関する技術名としてはおそらく、日本一知名度が高いのではないでしょうか。
DONUTSの正式名称はDriverOriented New Ultimate Tire Science。「GUTT(自動進化設計法)」「O-Bead(真円性向上ビード)」「LL(長連鎖)カーボン」の3つの新しいタイヤ開発技術で構成されていました。
一般のユーザーでも「乗ったら違いが分かる」「安心・安全」なタイヤ、というイメージを定着させることに成功。タイヤショップに「ドーナツ下さい」というお客さんが、続々押し寄せたとか寄せなかったとか。
1997年にAQ DONUTSに進化、ライフを延ばす「AQコンパウンド」とともに、従来技術はそれぞれ「GUTT-Ⅱ」「O-BeadⅡ」「新L.L.カーボン」にグレードアップしました。さらに2000年には、ますます劣化に強くなったAQ DONUTS2が登場しています。
近年では「ドーナツ」の名が前面に出てくることはなくなったように思えますが、そこで生まれた技術群は今でもブリヂストンタイヤのラインナップに採用されています。
エンライトンはある意味、そんなドーナツの積み重ねてきた伝統を受け継ぐ、新世代の基盤技術。求められるニーズの変化にスムーズかつ素早く合わせることができる「多様性」に優れたタイヤづくりを可能としているのです。