2010年秋、BMWアルピナ B3Sビターボ リムジンが日本に上陸した。E90型5代目BMW3シリーズのフェイスリフトを契機に、「B3ビターボ」が「B3Sビターボ」へと進化して登場したのだが、燃焼効率が高められてパワーアップと同時に燃費も改善された上に、その精巧なクルマ作りが注目を集めた。ここでは日本上陸間もなく行われた試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年11月号より)

技術面でも強いつながりのあるBMWとアルピナ

アルピナは極めて精巧でかつ高性能高品質なことで知られている。南ドイツの小さな街・ブッフローエにある、大きいとは言えない工場で、アルピナ車は顧客の注文に応じて1台1台入念に組み付けられる。完成したBMWをチューニングするのではなく、BMWから購入したコンポーネンツを使いながら、卓越した技術力と独自のクラフトマンシップをもって精巧に生産されるのである。

それゆえ、アルピナ社は小さくとも純然たる自動車メーカーとして認知されているわけだが、それはBMWとの密接な関係によって実現されるものでもある。ニューモデルを開発する際、早い時期からBMWとアルピナは連絡を取り合うという。このことからもBMWとアルピナがいかに強固な信頼関係にあるかわかろうというものだ。

実際、BMWとアルピナとは技術面においても強いつながりがあり、BMWの一部先進技術にはアルピナによるものも盛り込まれている。かつてモータースポーツ部門において、ターボ技術をはじめとして、アルピナの技術がBMWの活躍に大きく貢献していたのも有名な話だ。

アルピナはつい最近、1200万ユーロもかけて大規模な開発テスト施設を完成させているが、それは小規模な自動車メーカーとしては不釣り合いなもので、このこともアルピナが開発部門として重要な役割を果たしているものと想像させる。

画像: 注文に応じて、様々なオプションに対応するのもアルピナらしいところ。リムジン(セダン)だけでなく、ツーリング、クーペ、カブリオレも設定。ツーリングには4WDの用意もある。もちろん、ハンドル位置は左右選択可能だ。

注文に応じて、様々なオプションに対応するのもアルピナらしいところ。リムジン(セダン)だけでなく、ツーリング、クーペ、カブリオレも設定。ツーリングには4WDの用意もある。もちろん、ハンドル位置は左右選択可能だ。

さらに熟成された走りと作り込み品質

そんなアルピナの新作が今回紹介するB3Sビターボだ。BMW3シリーズのフェイスリフトを契機に、B3ビターボがB3Sビターボへと進化したわけだが、「S」の大きなポイントはエンジンにある。3L直6ツインターボは、高剛性マーレー製ピストンの採用、エアインテークや排出ガスフローの効率化などにより370ps/500Nmから410ps/540Nmへとパワーアップしただけではなく、燃焼効率を高めたことにより燃費の改善にも成功している。

BMW335iがツインターボからシングルターボへと変更している一方で、アルピナがツインターボにこだわっているのは興味深い。このツインターボの技術はもともとアルピナのものなのかもしれない。

組み合わされるトランスミッションはB3ビターボと同じ、ZF製6速ATスウィッチトロニック。ハンドルの裏側にあるシフトボタンを使って1000分の1秒単位のスピードで瞬時にギアを切り替えるシステムは、アルピナとZFとの共同開発によるもので、当然アルピナにしか搭載されていない。

スターターボタンを押すと、高性能エンジンは拍子抜けするほどスムーズに目覚め、すぐに安定したアイドリングを始める。6速ATもいたって滑らかで、Dレンジに入れてアクセルを踏み込んでも小さなショックすら感じさせず、気持ちのいい加速を見せていく。そして気がつけば相当な速度に達しているのだが、それさえも感じさせないほど室内は快適だ。

0→100km/h加速4.7秒、最高速300km/hというデータからその高性能ぶりはわかるが、むしろ特筆すべきはエンジンのきめ細かさ、滑らかで自然な走り。高性能にもかかわらず、いやこれは高性能だからこそ実現されるものなのだろう。同じ速度や加速でも、その内容が違う。

試乗車はオプションの19インチタイヤ(フロント:245/35、リア:265/35)を装着していたが、高いグリップ性能を発揮しながら、乗り心地が極めて良く、しなやかで自然な動きを見せることに驚かされた。サスペンションが締め上げられているはずなのに、不快なところがまったくなく、むしろ濃密な感じがする。BMWが積極的に採用するランフラットタイヤやアクティブステアリングをアルピナは頑なに採用しないが、それはこうした走りの味を実現するためなのだろう。すべての動きが精緻で破綻がない。

B3Sビターボでもうひとつ注目すべき点がある。それはベースの3シリーズの進化による性能向上も大きいということ。ブレーキエネルギー回生システム、圧力制御式燃料ポンプ、エアコンオフ時にコンプレッサーを切り離す機能といったBMWのエフィシェントダイナミクス技術は、このB3Sビターボにも盛り込まれている。これらの先進技術の投入もあって、410psという動力性能にもかかわらず、EU総合燃費は10.3km/Lという好燃費をマークしているというわけだ。

BMWという好素材とアルピナの卓越した技術力、そして小規模なメーカーだからこそできる丹念な作り込み。アルピナの魅力はこうした精巧なクルマ作りにあると思う。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘/写真:永元秀和)

画像: インテリアはB3ビターボと基本的に同じはずだが、その質感はもはや惚れ惚れとするもの。

インテリアはB3ビターボと基本的に同じはずだが、その質感はもはや惚れ惚れとするもの。

BMWアルピナ B3Sビターボ リムジン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4545×1815×1420mm 
●ホイールベース:2760mm 
●車両重量:1600kg 
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:302kW(410ps)/6000rpm
●最大トルク:540Nm(55.1kgm)/4500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:300km/h
●0→100km/h加速 :4.7秒
●車両価格:990万円・左ハンドル、1024万円・右ハンドル(2010年当時)

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